smpl

越川和磨 SPECIAL INTERVIEW Vol.4

2016/06/20

SPECIAL INTERVIEW Vol.4


Vol.1を見る Vol.2を見る Vol.3を見る


■越川氏の自作トレブル・ブースター


——あ、そういえば、先ほどから何度か話に出てる自作エフェクター(※19)の件ですが、詳しく聞きたいんですよ。ダラスRANGEMASTER(※20)回路のトレブル・ブースターですよね? まず、自分で作ってみて使ってみて、どうでした?

越川:いやー・・・最高っスね(笑)。

——しょっぱなから最高傑作ですか(笑)

越川:もちろん自分で作ったから、っていう気分的なものはありますけど(笑)。ただそれだけじゃなく、自分の狙ったところを自分なりに理詰めで突き詰めてるので、自分の欲しい音にはなりますよね。市販のエフェクターを使ってて「あーもうちょっとココがこうなってたら美味しいのになあ」って感じるところってありますよね? もうちょっとだけ歪むといいのに、とか、もうちょっとだけ音量感が増えれば最高なのに、とか。

——ちなみにそのトレブル・ブースターを使うときは、踏みっぱなし(=常時ON状態)ですか?

越川:いや、僕の場合はオンオフしたほうが使いやすいと考えたんで、フット・スイッチを付けてあります。最初はオリジナルのRANGEMASTERにいたく感銘を受けたことがきっかけなんですよ(註:アキマツネオ氏の自宅で、越川氏がアキマ氏と一緒にRANGEMASTERの音を試してみた時のこと)。こりゃあいいや!と思ってすぐJMI製の復刻版のRANGEMASTERを買ったんです。

——四角くてゴツくて、フットスイッチもないあの武骨な小箱を(笑)。

越川:ええ、でもすぐ気付いたわけです。これ掛けたくない時もあるしなあ、と。ONにすればローはバッサリとカットされるしゲインも上がるし、それは最高なんだけど、自分でコントロール出来るようになればもっと最高じゃん?と。で、ネットで検索すれば、BUZZ THEナンチャラっていうサイトがあって、わざわざ親切丁寧に回路図まで載せていて(笑)。

——あ、あぁ……あの頭のオカシなファズ・ブログのことですね(笑)。

越川:見ればすっごく簡単な回路なので「アレッ? これイケるんじゃね? 自分で作れるんじゃね?」と。そのBUZZ THEナンチャラっていうサイトの人がこれまた御丁寧にゲルマのトランジスタをいろいろわけてくれたんですよ(※21)。

——アハハ、そんなバカがいましたか(笑)

越川:アレッこれは自作しろっていうお告げなんじゃねえか、と。パーツ揃えてとりあえず作ってみたんです。で音出してみて、もうちょっとローが欲しいな、とかすぐわかるじゃないですか。それから「ハムのギターならこれで丁度いいけど、シングルのギター入れたときはちょっとシンドイな」とかそういうこともすぐわかる。それでまずやったのは、ローカットの数値を5パターン考えて、それで5種類のブースターを作ったんです。

——なるほどなるほど。

越川:全部自分の考えうる最良のパターンを探っていったんですね。ただね、その後に気付いたこともあって。それはオリジナルの回路図通りのトレブル・ブースターが一番音はまとまってて良かったですね。

——あらっ(笑)。

越川:ローを削らずに生かそうとする回路だと、歪みで潰れる成分も増えてしまって、みたいな。まあギターで考えれば、シングルコイル用のポットとハムバッカー用のポットって推奨値は違う数値なわけじゃないですか(註:前者は250kΩ、後者は500kΩ)。でも別に逆でも使えないワケじゃないですよね。まあそんな感覚に近いですよね。

——トレブル・ブースターを使うとなると、アンプの環境も再度考え直すことになりますよね。

越川:そうですね。極端に言えば、アレを踏むってことはもうギターのピックアップを丸ごと交換するような感覚にも近いくらい、ガラっと変わりますからね。ただ僕の場合、ブースターのツマミもフルに上げることはないんですね。トレブル・ブースターって基本的にツマミ1時くらいまでは素直にブーストされていって、2時くらいを越えるとギシギシ言い始めるカンジ。なので僕はそのくらいで使うことが多いんです。それ以上まで上げると、ブワーっと音も広がってトゥーマッチな成分がちょっと多くなってしまう。もちろんあのエフェクターもオリジナルでもツマミがありますよね。てことは、コントロールは自分でしろっていう意味なんだろうと思って。

——ハイ。(クイーンの)ブライアン・メイなんかはツマミ振り切った音だけを考えてたようなので、彼のオリジナル・トレブル・ブースターにはツマミも無いんですけど、あれは特例ですよね。ちなみに自作トレブル・ブースターのトランジスタは?

越川:僕はOC75と、AC128とで作ってみました。OC75のほうがゲインが高くて好みの音だったんで。

——オリジナルと同じトランジスタ(OC44、もしくはOC71)は試しましたか?

越川:それも作りました。でもオリジナル通りだと、フルにしても歪みはファズっぽいニュアンスまでは至らないんですね。僕が作ったものはその先の歪み、と言いますか、うっすらファズっぽい音まで出るようなカンジにしてみました。途中まではブースター、そこからトレブル・ブースター、その先にファズの領域がある、みたいな。

——なるほど、1台で、ツマミひとつだけで3変化する、と。

越川:あのー、YOUTUBEで「TONE BENDER MK1はRANGEMASTERのライバルになりえる」って書いてる人(※22)がいましたよね。あの感覚が僕にも良く分かるようになりましたね。自作しないと分からなかったことですけど。実はシリコン・トランジスタも使って自作してみたんですけど、そっちは全く別ものの音でしたね。やっぱゲルマのほうが、古き良き臭いがガシガシ出ますねえ。

——なるほど、歪みの色まで考え出すと、単純な回路とはいえトランジスタは結構重要になりますもんね。ただ逆に、それ一個でそこまで行くと、他のファズが全部要らなくなるっていう可能性も(笑)。

越川:そうッスね…… それは確かに(笑)。あと、ガワ=箱でも音が変わるかも、と思ってて。これは果てのない話になっちゃうんですが。それに電源も重要ですね。ひとつ外部アダプターが使えるモデルを作ったんですけど、もうそれ(アダプター)だけで音が全然違う。(写真はFUZZ FACEの筐体だが、これを使って越川氏は新たな自作ブースター制作に挑もうと考えてるとのこと)

——電池の残量で音が変わるのは皆わかってるんですが、アダプターでも音はやっぱり変わりますよね。TONE BENDERがその最たる例なんですが、電池の残量で音が変わるってことは、イコール毎日・毎時間音が違いますよ、っていうことの証ですからね(笑)。

越川:アダプターであれば、安定して9Vが供給されますよね。でも電池は実は9Vである時期は電池の寿命の中でほんの一瞬しかないわけで。

——はい。新品状態だと電池は9.3V以上ありますよね。で、8.5Vくらいまでならギリギリ使えてしまう。

越川:その8.5から9.3くらいのどっかの状態が一番いい音が出るハズなんですよね。

——あのー、ご存知かどうかわからないんですけど、最近のパワー・サプライって、端子1ケ1ケにボルト数を調整できるっていうものもあるんですよ(※23)。

越川:調整できるんですか? ウワー・・・そこまできたかっていう感慨はありますね。僕とかって「新しい製品は使わない」って思われてるフシがあるんですよね。でも逆に僕はビンテージ云々には基本興味ないんですよ。それに新しい商品のほうが何かしら素晴らしい点があるとも思ってて。

■終わりなき「音」探求のココロ



——そうですよね、今までも何度も「ビンテージに興味ない」っておっしゃってましたもんね。ちなみに最近入手した一番新しい機材て何ですか?

越川:んー、なんだろう? 最近自分のアンプ(マーシャル1959)を大改造(※24)したところですけど・・・最近使った新しい機材は、マーシャルCLASS 5ですね。

——アハハ、アレっすか(註:筆者が不要になったので、越川氏にあげたもの)

越川:アレは音デカいっすよ。普通にスタジオで出せる音量ですから、家では絶対無理っスね。ただコンボのCLASS 5でいまいち好きになれなかったところはスピーカー。これはたしかアキマさんも同じことを言ってたと思うんですけど、あの10インチのスピーカーがあまり好きじゃなくて。12インチのグリーンバックに入れてやるとかなりいい音するんですけどね。

——あ、やっぱりそういう点でも、吊るしの状態の製品じゃなくて、最高の音を追求したいという先ほどのお話と通じますよね。

越川:まあ、試しだすとキリがないわけですが。

——ええ、僕も前述のファズ対談で「この道は冥府魔道の道」って言ったんです(笑)。アレをこうしたらこうなるんじゃないか?っていう地獄の1本道だ、と。

越川:そういえばこないだも、僕の知り合いでアンプ作れるっていう若い人がいて、「じゃあさ、AC30ってあるやん? あれを60WにしてAC60って作れんの?」って聞いてみたんですよ。そしたら「ええ、作れると思います」って。「ホンマか?じゃあやってみようや」なんて話をしてたんですよ。

——ん? 出力を倍にするなら、AC30の回路通りじゃなくてパワー管を変える必要がありますよね?(註:通常AC30はEL84を4本使って30Wの出力を生み出す)

越川:いや、真空管はEL84そのままで、本数を8本にしよう、と(笑)。

——8本!豪快ですね!

越川:理論的にはいけるんじゃないかと。例えばジミー・ペイジにしてもランディー・ローズにしてもミック・ロンソンにしても、使った機材ってなにかしらモディファイしてたじゃないですか。で、自分でも回路図を少しずつ読めるようになったときに「ここにアレ足せばいいんじゃね?」みたいなのが思いついてしまうんですよね。AC30の音が欲しくなっても、AC30だと出力は30Wしかない。じゃあ、って考えて、マーシャルみたいにEL34の4本使いに変えちゃうとその時点でAC30の音ではなくなってしまう。だから「んじゃ8本にしたら?」と考えついてしまったわけです(笑)。

——夢は大きいですね! 実現したら教えて下さい(笑)。

越川:音を追求していきたいのは変わらないんですけど、バンドをやってる以上、何かしらの妥協はしなきゃいけないんですよね。音量だったり、空間系エフェクターが必要になったり。シンプルなシステムだけではこなせない場面がありますから。ギター・アンプひとつをとっても、例えばツマミが少ないほうが音はいい、とか、リバーブもトレモロもいらないから外してしまいたい、とかいろいろあるんですけど、バンドの中ではコントロールしやすいとか音量が調節しやすいとかは必須ですからね。マスターボリュームを付けるか否か、ということでもそれは悩みどころですよね。

——あー、マスターボリュームはそうですよね。

越川:ただ、僕の場合、常に「何かしら新しいことをやりたい」って思ってプレイしたり音作ったりしてるんですね。だからビンテージ主義者じゃないんです。ビンテージの機材をこう使ったら新しいことできんじゃね?てのをいつも考えてるんですよね。今後も新製品はどんどん出るわけですし。

——でも最近越川氏は沢山のプロジェクトを抱えて、実際ギター弾く方で最近もすごく忙しそうですが。あんまり機材にアレコレと思いを巡らせる時間もないんじゃないですか?

越川:もう今年は人前に出れるチャンスは全部出ようと思ってるんですね。スターベムズでフェスにも出るし、今度沖縄にも行ってきますし、ベムズでの新作のことも考えてます。それから仲野茂さんのバンド(LTD EXHAUST)でのライヴもあるし、山川のりをさんのバンド(ギターパンダ)でもライヴやることになってますし、それからまたドレスコーズに参加(4月22日NICO TOUCHES THE WALLとの対バン)することになりましたし(註:取材は4月某日/写真はZEPP DIVERCITYの楽屋で自撮りする越川氏)。

——ああ、やっぱメッチャお忙しいですよね。

越川:なのに、そんな中で自分のマーシャルをイジリ出しちゃったりして、寝れなかったりするんですよ(笑)。一度思い立ってモディファイやり始めると、気になっちゃって最後まで止まらないんです。ギンギンに熱くなってしまった真空管を相手に真夜中に格闘して徹夜になったりしてますね。


(了)




※19 自作トレブル・ブースター:
越川氏が夜なべして(笑)セルフ・ハンドメイドしたというトレブル・ブースターの数々は、写真を提供していただいたのでここで一挙掲載。「24 RANGE-BENDER」と名付けられたその自作ブースターの1号機はオレンジ色の筐体に入ったもの。金色の筐体に入ったもののうち、ステンシル・ペイント(日高央氏による手書きペイント)のものは、越川氏自らのペダルボードに組み込んで使用。「WILD 24」と名付けられたものは、ローカットの数値を変更し、ワイドなレンジでブーストする仕様のもの。「24なつめBOOST」と名付けられたものは、挫・人間の夏目創太(G)に提供。





※20 ダラスRANGEMASTER:
1965年に開発・発売された世界初のブースト・エフェクター。詳細は「MADE IN ENGLAND〜歴史と伝統の英国サウンド」にて。

※21 BUZZ THE FUZZ:
2010年2月から筆者が始めたサイトで、基本英国産のファズ、TONE BENDERとその関連情報だけに関して言及する、という呆れたブログ。その後、前述通りスペインのMANLAY SOUNDとオリジナル・ファズの開発を行なったり、英国JMI製のTONE BENDER復刻ペダルの流通を行なったり、著名ミュージシャン等のインタビューを掲載。近年は同テーマの記事はイシバシ楽器サイトに書くようになったのでブログの更新は滞りがちです。恐縮です。



※22 TONE BENDER MK1はRANGEMASTERのライバルになりえる:
Youtubeにてマーシャル200Wアンプ「MAJOR」の初期モデルのデモ動画を公開しているジェイソン・クイック(JQuick69)氏によるもの。動画の中で氏はMAJORとTONE BENDER MK1クローンファズ、それからCRYBABYワウを接続したデモ演奏を公開しているが、その中で「TONE BENDER MK1は、トランジスタを暖めてやるとRANGEMASTERのライバルといえるようなサウンドになる」とコメントしている。


※23 電圧調整可能なパワーサプライ:
VOODOO LAB PEDAL POWER 2 PLUSやEX-PRO PS-2等。多くの場合は9V以上の電圧を執拗とする製品に対応したり、高電圧作動のブースター・ペダルで使用してヘッドルームを高く保つための用途のものだが、9V前後でも微調整ができるものがあり、インタビュー中にもあるように、ファズで使用して任意の電圧設定を供給してファズのサウンドをコントロールすることも理論上可能となる。


※24 マーシャル1959の大改造:
長らく使用し続けてきた越川氏の愛用アンプ、白のマーシャル1959だが、最近氏は自らの手によって大掛かりなモディファイを敢行。いわゆるカスケード接続(入力段を直列配線することによりゲイン・ステージを強化すること)モディファイを施したが、本人的に満足行く結果ではなく、しばらく試行錯誤する、とのこと。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

category

関連リンク