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越川和磨 SPECIAL INTERVIEW Vol.2

2016/06/06

SPECIAL INTERVIEW Vol.2


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■いにしえの機材に宿るロマンと闇


——今なら凄い高性能なマルチとか、高性能なアンプとか、あとはKEMPER(PROFILING AMP)のような最先端の機材もありますけどそういうのに興味はあります?

越川:今、僕はそういう時代の流れに逆行してるカンジですね(笑)。KEMPERなんかも凄く気にはなってるんですよ。今はKEMPERの実力を知らないのでなんとも言えないんですが。例えばVOXの初期のアンプはインプットの真空管がEF86(※6)だったじゃないですか。

——はい、あまり質のいい玉が揃わないので、VOXが早々に使うのを諦めてしまったという真空管ですよね。

越川:あれをあえて今使って、いい音出せないかな、とか考えてるんですよ。ファズもそうなんですけど。やっぱり時代に完全に逆行してますね。だから、闇が深いです(笑)。

——闇っスか(笑)

越川:ゲルマニウム・トランジスタも真空管も、同じ型番であっても「同じ音」ではないんですよね。「傾向が同じ」ではあるんですけど、「同じ音」ではない。例えば真空管ならムラード製で何年何週目とか、シリアルでわかるわけですけど、それでも同じ音ではない。ただ「傾向が同じ」という点はわかってきたんで、ひたすら組み合わせを探し求めるカンジです。

——ゲルマニウム・トランジスタってほんと型番だけじゃ何も分からないに等しいですもんね。

越川:そう、トランジスタのほうが(真空管よりも)差は大きい。だから一期一会的な感覚が大きいんです。

——ファズ用のトランジスタの話ですが、同じ型番、同じ歪み値でも、(回路に)刺してみないとどんな結果になるか結局わからないんですよね。しかもファズの場合はトランジスタの組み合わせですし。

越川:アンプで言えばプリ管もそうですよね。初段がこれで、後が何、っていう組み合わせ。

——ビンテージ・ファズのコレクターの人とかは、同じモデルを何台も所有することが多いんですが、その理由はやっぱり「全部音が違うから」なんですよね。

越川:つまり、回路とかスペック表には正解がない、っていう事ですよね。たとえ英国ムラードのOC75(※7)であっても、それが正解かどうかは音出してからじゃないと分からない。でも僕はOC75て大好きなんですよ。

——あ、僕もアレ大好きなんですよ(笑)

越川:あのカンジ最高ですよね。OC75だからこうだ!っていう話をここでしたところで、誰がどのくらい理解してくれるかはわかんないスけど

——そうですね。言葉で言ってわかる話じゃないですもんね。特にOC75のブラックキャップっていう、あの座薬みたいな形をしたヤツ(笑)。ガラスでできたケースなわけですけど。ちょっと興味深い話を以前アキマツネオさん(※8)からうかがったんですよ。アキマさんいわく「ガラスだから生まれるいい音」っていうのがあって、真空管も同様なんだけど、トランジスタの場合もガラスが共鳴することで音楽的に丁度いい倍音が生まれるんじゃないか、っていう説なんですが。


越川:金属のケースでは出ない音、と…… なるほどなるほど。僕はたしかに(同じ欧州産でも)AC系のトランジスタにはあまり惹かれてなくて。それから「OC75が〜」って言葉にしたときの気持ちよさってあるんですよね。ロマンですよね。

——(笑)気分って重要ですよね。ムラードって書いてあることのロマンとか、MADE IN GREAT BRITAINって書いてあることのロマンとか(笑)。でもそれはホントに気分でしかなくって、実際にはイバラの道ですけど。僕、先日とある雑誌の企画(※9)で、BIG MUFFのマニア、それからFUZZ FACEのマニアの方々と「ビンテージ・ファズって何だろう」っていうテーマの対談をやったんですね。でも僕個人の結論としては「気軽に手を出すな」でしたね(笑)。

越川:まあそうですよね。「アレを買ったらこうなるんだ、こういう音なんだ」なんて一定のもの、一定のルールは、基本ないですからね。

——女の子とある意味似てるかも、と思ったんですよ。ああいう外見、ああいうスペックだからああいう人だろう、と考えても、付き合ってみたら「アレッ思ってたのと違うなあ」みたいな(笑)。

越川:そうですね(笑)。スペックから想像してビタッと一致することはないですね。そこから先は妥協ってのも出てくるんですけど。でもある種の「傾向」ってのはあるかもしれませんよ。

——ああ、〜〜みたいなルックス、〜〜みたいなお仕事の女性は〜〜のような傾向がある、と(笑)そこはたしかに踏まえないといけませんよね(笑)。先ほどVOXアンプの話も出たんですけど、越川氏はビートルズのギターの音とか研究したことってあります?

越川:ビートルズはね、好きですよ。好きですけど、センテンスがいろいろあるじゃないですか。細かい文脈とか蘊蓄とか。それを全部追うのは僕には面倒くさいんで、今のところ「もの凄くいい曲を書くグループ」ってレベルで、あえて止めてますね。

——でもほら、アビー・ロード・スタジオ行ってアルバム録音したりしたじゃないですか(※10)。毛皮のマリーズ時代にはビートルズぽい音作りもあったので、ビートルズのギターの音を研究したりしたのかな、と思ったんですが。

越川:あの時はたしかにチャック近藤さんが書かれた本を読んだりもしたんですけど(笑)。

——研究してますね(笑)。

越川:ただ、僕のサウンドっていう点では、別にいらないかなっていうノウハウだったんで。ビートルズの音を再現する気もなかったんですし。でも、やっぱり好きですよビートルズ。

——アビー・ロードのスタジオ、どうでしたか?

越川:やっぱりテンション上がりましたよ。壁の落書きすごいなーとか、前の有名な横断歩道はいっつも誰かが記念写真とってるなーとか。でもあそこの横断歩道、結構交通量多いんで、昼過ぎになるともう危ないんですよ(笑)。

——マリーズの録音の際のエンジニアの方はアビー・ロードの人だった?

越川:そうです。それもあって、結局(金額的に)高くついちゃったんですけど(笑)。そのエンジニアの人がドヤ顔で「ほら、これがジョン・レノンが使ったノイマンのマイクだよ」なんて自慢げに言ってくるんですよ。

——アハハ、もう儀式みたいなモンなんでしょうね。

越川:もう今は60年代の機材は随分処分されてなくなってるし、録音方法ももちろん違うんですけど、スタジオの箱の鳴りみたいなのは「あ〜なるほどな」って感じることはできましたね。あとね、朝方にあそこのスタジオの窓から鳥の鳴き声とか聴こえてくるんですよ。「お〜ロンドンやなあ、これがアビー・ロードやなあ」って体験はできましたから。実際に行ってない人には経験できないことですからね。誰かからビートルズのウンチクを聞かされても僕は「ふーん、ところでお前鳥の鳴き声聞いたことあるん?」って言い返しますね(笑)。

——そりゃあ言われたほうは「ぐぬぬ」ってなりますよね(笑)。

■アンプのワット数と音の大きさ



——マリーズ時代のギターで使ってた歪み系はどういうカンジで選んでたんでしょう?

越川:最初のほうで言ったBig Muffと、HONDA SOUND WORKSのファズと、あとマーシャルのDRIVE MASTER(※11)とか使ってたなあ。でもどれも抜けはよくなかったなあ。

——特に初期のマリーズの音なんかはわざとグッシャグシャに歪ませた感じを出してるとかと思ったんですね。

越川:そうですね。ただ足下(のエフェクター)でゲインを上げても、アンプのスピーカーがそれを綺麗に鳴らしてるので、なんかアンプとスピーカーがギッシギシ言ってるような勢いのあるオーバードライヴは出てないんですよね。汚れた音が綺麗なお皿に載って出てくる、っていう感覚で。

——あーなるほどなるほど、上手いこと言いますね(笑)。その時のアンプは?

越川:マーシャルの1959を持っててソレをずっと使ってたんですけど、何度もヒューズ飛ばしちゃったりして、最初の頃はあまり上手く使えてなかったですね。壊れてしばらく放っといたりしたんです。で、そんなときにアキマさんに新しいアンプを作ってもらったんです。JEWELってアンプを。

——「セックス・ピストルズと同じ音が出るアンプ下さい」ってアキマさんにオーダーしたというやつですよね。(※12)

越川:そうです。ちょうど毛皮のマリーズがメジャー・デビューするころ(06年)ですね。

——使いやすかったですか?

越川:使いやすかったですね〜。自分が欲しかった歪みとか、ギターを選ばずに欲しい音が出るアンプだったんですよ。それまで使ってたマーシャル1959には、出音に何か膜が一枚張ってあるっていう印象があったんですね。その膜を感じるせいで、音が随分奥から鳴ってるっていう印象なんです。

——あ、ちょっとわかる気がします。奥から鳴ってるカンジがするから、1959でタイトな音が欲しい時に音量をおっきくしてしまいがちですよね。

越川:でも音量を上げていくと、いらない成分まで大きく出てきてしまうんですよ。そこが問題だった。なのにアキマさんのアンプはそういう点がスパッと解消されてるんですよね。アキマさんもおっしゃってる独特のミドルの成分(※13)もそうでしょうし、音の早さもそうですし。

——やはりそれが「抜け」ってヤツなんでしょうかね。

越川:抜け……うん、そうなんでしょうね。それに音が全然平面的じゃない。すごく立体的で、スピードも早くて。自分の欲しい音てコレじゃん、てすぐ思いましたね。

——アキマさんのアンプって、音デカイですよね。30Wであっても30W以上の音のデカさというか。

越川:数字でいえばワット数通りなんでしょうけど「デカく聴こえる」ってことなんでしょうね。100Wのマーシャルと、30Wのアキマさんのアンプ比較しても、まったく遜色無く聴こえますからね。音の大きさも、音の抜けも、ギターの存在感もハッキリ出ますからね。

——僕も何度かアキマさんにその辺のお話をうかがってはいるんですが、その違いのキモの部分ってあまり細かいポイントではないようなんですよね。勿論アキマさんなりにもの凄く細かいチューンをされた上でのアンプだってことは存じてるんですが。

越川:アキマさんの最高なところは、「これこれこういうアンプが欲しいんです」って言うと、「こうでしょ?バーン!ほら〜カッコいいでしょ?」っていう、フィーリングとか勢いとかでも信頼が置けるってことなんですよね。ご本人もギタリストだっていうのは大きいですが。

——ロックってこれっしょ!みたいなのを完全に肌感覚で教わってる気もしますね。ただ、スターベムズみたいなハードコアでラウドなロックだと、アキマさんみたいなアンプは合わないかも、と思ったりしませんか? ドロドロなロー成分が足りないな、とか…

越川:最初はそうかもって僕も思ってたんです。けど使ってみたらそうでもなくて、バッチリ使えるな、と思ってるんです。ベムズは全部の楽器が手数も多くて音も大きいんで、やっぱりベースとギターが濁ることが多いんですね。濁るってことは、音として一応出てるけど、濁って耳に認識できない成分の音が多い。僕もエングルのアンプを使って音の大きさでも負けねえゾ、って気持ちでやってた時もあったんですけど、そんな時にアキマさんのアンプ使うと、ちゃんと抜けて聴こえるんですよね。むしろ150Wのギター・アンプとか400Wのベース・アンプに混ぜても、アキマさんの30Wでちゃんと抜けてくるんですよ。

——その「抜け」って、箱=ライヴハウスでやっぱり変わるもんですか。

越川:いや、多分関係ないです。ステージの上のバランスの問題ですから。

——なるほど。ワット数はもはや大きな問題ではないと。むしろそれはアレンジに左右されるんでしょうかね。

越川:小さなアンプでも出るものは出るんですよ。こないだ僕バンドのリハで5Wのアンプ使ってみたんですよ。マーシャルのCLASS5を。あれって5Wですけどメチャメチャ音のデカいアンプで「あれっ全然使えるじゃん」って思いましたね。その時は12インチ4発のキャビで音鳴らしたんですけど、十分使えるなって。

——なるほど、ヘッド側のワット数だけじゃなく、やっぱスピーカーの環境もデカいですよね。

越川:僕は今、基本的に「アンプだけでどこまでいい音を出せるか」っていうのが最重要課題なんですよ。最近ライヴ・ハウスで若いバンドを見る機会も多いんですが、やっぱりコンパクト・エフェクターを上手いこと使いこなせてる人って驚く程少ないんですね。

——そうですか。今はマルチ使う人も少なくなって、コンパクトを沢山使ってペダルボード組んでる人のほうが多そうですけど。

越川:でも多く並べる人に限って、やっぱり基本的なギターの音を足下で作ってしまうんでしょうね、アンプから出てくる音の重要性が低いカンジなんですよ。そういう人の足下に目をやると、いろんなペダルがありますけど、たいてい「真空管アンプの音を再現した歪み系ペダル」とかがあるわけです。それはそれでいいんですけど、僕の場合は「それなら真空管アンプを歪ませるわ」って思っちゃうんですよね。

——マーシャルPLEXIの音を再現、ていう謳い文句のエフェクターはそれこそ山のようにありますし。

越川:だったらマーシャルPLEXIを使えばいいジャン!って。

——うーん、まあPLEXIの場合は敷居がかなり高いですが(笑)。

越川:でも結局真空管なんだったら、本当の真空管鳴らせば?っていう単純なところに戻るんです。コンパクト・エフェクターでしか出せない音ってのもあるんですよ。それはそれでアリなんですけど、「真空管のような暖かみある歪み」とか、そういうのが欲しいなら、僕は本物を鳴らしたいですね。

(Vol.3へ続く)




※6 EF86:
一般に「高音の伸びが艶やか&きらびやかでハイファイ」と評される入力段用の真空管。1950年代、VOXブランドがアンプ製造を始めた当初にプリ管はこのEF86が用いられたが、マイクロフォニックを多く拾ってしまうこと(=ノイズが多い)や製品のバラツキが大きすぎること、耐久時間が短い等を理由に、数年のうちに採用が見送られたという経緯がある。あまりギター・アンプ向きではないともいわれるが、それでもこの真空管のサウンドでしか出せない音もあり、その魅力は今も健在。BAD CAT製アンプや、現行品のVOXアンプ等でこのEF86を用いたアンプもある。


※7 英国ムラードのOC75:
英国のムラード社は1920年設立の電子部品製造会社で、1924年以降オランダの大手企業フィリップス社の完全子会社となった。同社が初めてトランジスタを開発したのは1952年、当初のトランジスタ部品は不良品が多く、1954年以降は「ガラスケースに半導体を密閉封入した」トランジスタが開発、発売され、その初期の製造品であるOC70〜76の型番のトランジスタは(低周波用パーツだったため、ラジオ製品等にはほとんど使用できないため)大量には製造されなかった。OC75は60年代の欧州産ファズ製品によく用いられたゲルマニウム・トランジスタで、イギリス・ムラードの工場で作られたOC75には「MADE IN GREAT BRITAIN」や「BRITISH MADE」と印字されているものがある(ただし無いものもある)。


※8 アキマツネオ:
元マルコシアス・ヴァンプ/現RAMA AMOEBAのフロントマン。AKIMA&NEOSというアンプ&エフェクターのブランドも主宰。1987年以降、マーク・ボラン(T.レックス)の命日でもある9月16日にはイベント「GLAM ROCK EASTER」を毎年主催、2016年の今年は同イベントもなんと30回目を迎える。越川氏も筆者もともにアキマ氏の機材理論にかなり影響を受けていることも事実で、近々アキマ氏の独占ロング・インタビューを当コラムにて掲載予定。


※9 雑誌の企画:
2016年春に発売された『THE EFFECTOR BOOK』VOL.31「ヴィンテージ・ファズ特集」(シンコーミュージック刊)内の対談記事。


※10 アビーロード・スタジオ録音:
越川氏が所属していたバンド、毛皮のマリーズは2003年結成、2006年デビュー、2010年メジャー・デビュー、2011年の日本武道館公演を経て解散。ラスト・アルバム『THE END』(2011年発売)はロンドンのアビー・ロード・スタジオ録音作だった。


※11 マーシャルDRIVE MASTER:
同ブランドの有名なディストーション・ペダル「GUV’NOR」の後継機種として開発・製造されたが短命だった歪み系エフェクター。3バンドEQを搭載し、プリアンプ的な使い勝手を考慮したと思わしき設計で、イギリス製。


※12 AKIMA & NEOS JEWEL:
アキマツネオ氏が制作したカスタム・ハンドメイド・アンプ。ギター・アンプに関してはおおまかにブリティッシュ・アンプ・サウンドを狙った「CHARIOT」、アメリカン・アンプ・サウンドを狙った「JEWEL」がシリーズとしてあるが、AKIMA & NEOS製アンプは基本的にオーダーを受けてから詳細な打ち合わせを経て製造されるため、そのほとんどがワンオフ仕様となる。越川氏の持つ「JEWEL」はセックス・ピストルズのギタリスト、スティーヴ・ジョーンズが使ったフェンダー・ツイン・リヴァーブの音を参照して制作されたもので、毛皮のマリーズの日本武道館コンサートでも使用された。


※13 独特のミドルの成分:
アキマ氏の主張のひとつとして「市販のギターアンプではバンド・アレンジのギターに必要なミドルの成分が圧倒的に不足している」がある。ゆえに、アキマ氏のハンドメイド・アンプはミドルレンジが集中的に出るように設計されている。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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