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TONE BENDERとは...

2015/04/12
 FUZZ(ファズ)。英単語の意味としては「毛羽立った」とか「ボンヤリと境界がハッキリしない」という意味の言葉です。しかし楽器関連の単語としては、その歴史上最も古くから存在する歪み系ギター・エフェクターとして知られています。


 この世界最古の歪み系エフェクターはその生誕以来50年以上にわたって(21世紀の今になっても)多くのギタリストを魅了して止まないツールとしてご承知かと思われます。
 世界で一番最初に一般発売されたファズは、1962年に米GIBSON社傘下のMAESTROブランドから発売されたFUZZ TONE FA-1というファズでした。このモデルは、後の65年にキース・リチャーズがローリング・ストーンズの名曲「サティスファクション」にて使用したことでも知られる機種です。
 その「サティスファクション」が発表されたのと同じ65年、"名器"とされる新しいファズ・ペダルがイギリスで開発されました。それがTONE BENDERです。
開発したのは楽器系電気技師、ゲイリー・ハーストという人物でした。当時ブリティッシュ・インベイジョンと呼ばれる程にイギリス産のロック・サウンドが世界中を席巻していた時期、そしてイギリス産のサウンドが"最新"のサウンドだった時期にあたります。以降、世界中のギタリストがこのファズ・サウンドに夢中になりました。
 ジョン・レノン、ジョージ・ハリソン、ポール・マッカートニー、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、スティーヴ・ウィンウッド。彼らは皆60年代にゲイリー・ハーストから直接TONE BENDERを入手し、実際に使用したミュージシャンの一部です。もちろんその他にも多くのミュージシャンがTONE BENDERを使用しました。ピート・タウンゼンド、ジミ・ヘンドリックス、ミック・ロンソン等もTONE BENDERを使用していました。

 時を経て21世紀。TONE BENDERの生みの親、ゲイリー・ハースト本人の監修を得て、そのTONE BENDERが復刻されました。1960年代当時そのままのルックスと、当時そのままの回路を再現したこの復刻品は、当初イギリスのJMIブランドから発売されましたが、今回JMIブランドのブランド再編に伴い、エフェクター製品に関してはBRITISH PEDAL COMPANYという新ブランドで発売されることになりました。
 この復刻品TONE BENDERの製品は、驚くべき特徴を備えています。なんと50年以上前と同じルックス、同じ回路を同じパーツで再現する、という主旨で製造・販売されているからです。イギリスの工房にて基本的にひとつひとつがハンドメイドで組み立てられるこれらの復刻品は、もちろん往年のブリティッシュ・ロック・サウンドを再現するためには必須のアイテムともなりうるエフェクターです。しかしそれと同時に、現代のロック・ギター・サウンドにおいても無類のインパクトを持つサウンドを生み出すこともできます。


 例を挙げましょう。エアロスミスのジョー・ペリー(写真:右)は「今まで大好きだったけど、どうやっても自分では出すことの出来なかった音」と語るファズ・サウンドがありました。それは彼が長らく愛したジェフ・ベックのギター・サウンドでした。しかしジョー・ペリーは近年復刻版のTONE BENDER MK1を入手し、ついにそのサウンドをGETできた、と発言しています。
 もうひとつ例を挙げます。ダイナソーJRのJマスシス(写真:左)は、無類の(エレハモ製)BIG MUFFのファンとして知られるギタリストですが、今はもうレコーディングでは「ほとんどBIG MUFFを使わなくなった」と言っています。彼は友人でもあるマイ・ブラッディー・ヴァレンタインのケヴィン・シールズから進められて、復刻版のTONE BENDER MK3を入手しましたのを契機とし、以来各種TONE BENDERを試した上で、現在はTONE BENDER MK1をペダルボードに組み込んでいます。
 さて、このコラムはBRITISH PEDAL COMPANYによる各種復刻品TONE BENDERを紹介すると同時に、1965年に誕生以来その多岐にわたるラインナップが生まれたことでも知られるTONE BENDERというファズとは一体なんなのかを、奥深いブリティッシュ・ロックの歴史、そして英国製ファズのヒストリーとまみえて触れてみたいと思います。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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