smpl

越川和磨 SPECIAL INTERVIEW Vol.3

2016/06/13

SPECIAL INTERVIEW Vol.3


Vol.1を見る Vol.2を見る


■マーシャルの200Wアンプ「MAJOR」


越川:あの、たった今まで僕が言ってきたこととまったく逆の話になるんですが、僕は200Wのアンプが大好きなんですよ(笑)

——あら、真逆ッスね(笑) でも今、日本のギタリストの中で200Wのギター・アンプのサウンドを経験談として語れる人は越川和磨しかいないハズなんですよ(※14)。

越川:まあ他に200Wのアンプ使う人はいないですからね(笑)。でもね、200Wのアンプの音量感が好きってワケじゃないんです。200Wのアンプが持ってる「余裕」の部分が好きなんです。だからフルテンにして、200Wだぞドヤぁ、ってカンジの音ではないんです。

——んー、いわゆるヘッドルームの余裕とか、KT88(200Wアンプに使われる出力管)の音とか・・・

越川:細かく言うとそうなんでしょうね。たとえばエングルのアンプで150Wのものがありますけど、あれとはまったく違うんですよ。あっちは凄く歪むし、凄く音もデカくでる。そういう認識で合ってると思うんですけど、僕が200Wに求めるのはそういうのじゃないんですよ。僕には出したい音の明確な目標が定まってたんで。

——その求める音てのは、ミック・ロンソンの音(※15)ってことですよね?(笑) どうでした?ドレスコーズのツアーで使ったMAJORは?

越川:いやー、ブっ飛びましたね。

——どういう音が出るか、アンプの性質がわかるまで数日かかかったとのことですが。すでにマーシャルの100W(=1959)を長らく使われていたので、その比較をしていただけるとわかりやすいんですが。

越川:もちろん構造自体違うんですが、200Wあると爆音でここまで大きな音が出せるんだっていうカルチャー・ショックが凄かったです。

——1959もなかなか歪まないことで有名ですが、それでも体験できない領域の爆音クリーンってことですよね。

越川:1959もツマミ10時くらいから少〜しずつ歪み出すんですよね。でもMAJORだと1時くらいでも「まだまだ全然クリーンですけど何か?」みたいな、超余裕ブッコいたアンプで(笑)。しかも歪まないからサスティーンもなくって。ギターの音が素のままで、しかも大爆音で出てくるっていう。

——どのくらいから歪むカンジでした?(註:マーシャルMAJORの初期型は、3ボリュームという特殊なコントロールのアクティブ回路を持った200Wアンプ)

越川:だいたいツマミ3時くらいからですかね。随分遅い時間帯ですね(笑)。MAJORもフルテンにすると十分オーバードライブな歪みになるなんですよ。ただ僕はクランチで使いたかったんで、フルテンではなかったですけどね。

——200Wアンプをそこまでツマミ上げて使うのは、経験できないことですよね、普通なら(笑)。

越川:でもクランチにおさえることで、強くアタックすればババーッ!と鳴って、手元を軽めにすれば歯切れよくチャッチャッと鳴ってくれて。それは1959では経験できない音でしたね。いままでクリーンな音の固まりが、そこまで大きな音の固まりとして出てきた経験がないので、ビックリしましたね。

——1959だと、クリーンではなく歪んだ音の固まりしか経験できないわけですよね。

越川:MAJORだとそのクリーンの固まりがバコーンと勢い良く飛び出てくるわけです。しかも遠くまで飛んでいくわけですよ。歪んでないから、音の減衰部分…… あのー、波形で言うと、アタックの部分の後の、波形がすぼんでいく部分があって、三角形になりますよね? あの波形がそのままでかい音で飛んでいく感覚です(※16)。

——なるほど。歪んだアンプだと、そのすぼんでいく部分は増幅されて三角形になっていない形の音の固まりなワケですもんね。

越川:実はエレキギターって元々そんなにサステインのない楽器なんで、それがそのまま音になるっていう感覚ですね。それをやっと体験したカンジです。1959だとギターが本来持っていないサステインが付加されるわけで。

——従来の感覚で言えば、アンプ側がサステインを付加することは、ギタリストにとって理想的というか、美しいこと、ですよね。

越川:そうです。ただし200WのMAJORに関して言えば、それは付加されませんよ、と(笑)。そういう意味では、やっぱり弾きにくい部類のギター・アンプって言えるでしょうね。

——なのにそんなアンプを美味しいと思った理由はなんでしょう?

越川:そこでミック・ロンソンの話になるんです(笑)。彼はやっぱりそこでサステインが欲しくなったから、TONE BENDER MK1を挟んだんだろうと。MK1はもの凄くサステインありますから。でね、あのアンプはやっぱりファズのノリがいいんですよ(写真は2015年のドレスコーズのツアーで使用した越川氏のペダルボード)。

——ああ、そういえばあのアンプをメンテナンスしていただいた時に、アキマさんも「このMAJORはRANGEMASTERとの相性がバツグンにいい」とおっしゃってたのを思い出しますね。

越川:アンプ側の余裕も凄くある。もし1959にTONE BENDER MK1を刺しても、アンプ側の余裕がないから結構音もサステインも殺されるんですよね。サステインがあるにはあるんだけど、それはTONE BENDER MK1の生み出したサステインではない、別物のサステインなんです。

——ミック・ロンソンの音って一筋縄ではいかないわけですけど、音の前に機材として、マーシャルMAJORとTONE BENDER MK1の組み合わせは、越川氏としても追い求めたい部分ですよね?

越川:そうですね。でもいざバンドの中であのアンプを使ってみてわかったことは、200WのマーシャルMAJORって、バンドのアレンジを破壊しますね!

——えっ?(笑)

越川:アンプの存在感が突出してる。突出しすぎてる。

——ドレスコーズであのアンプを使ってみて、他のメンバーからなんか怒られた?

越川:ドラムは中村達也さんだったんですが、あの中村達也さんをして「地獄みたいな音だ」って言われました(笑)。

——・・・地獄!。

越川:で、あのアンプを実際に使ってみて、1970年代にミック・ロンソンがステージ上で、どんな出音で演奏してたんかな?っていう謎が増えましたね。デヴィッド・ボウイはステージ上でアコギを弾いたりもするわけじゃないですか。ドラム、ベース、アコギ、ピアノ、それにエレキギター、それらをステージ上でどうやって共存させてたんかなっていうのが謎ですね。

——ミック・ロンソンが使ってたアンプは内部が改造されてた可能性もあるので、一概に同じとは言えない部分も残ってはいるんですよね。

越川:そう、それとミック・ロンソンはエコー(マエストロEP-3)んだ挟む時期もありましたよね。その環境は僕もまだ試せてないので、まだまだ研究の余地はありますね。

■自分のサウンドを自分で作ることの意味



越川:ただ、やっぱり僕はそういう突出した機材が好きなんですよね。だからあの200Wのアンプも好きなんです。そのかわり「普通の歌ものバンドじゃあ使えないな」とも確信しましたけど。

——いやいやちょっと待ってください。一応ドレスコーズは歌ものバンドじゃないですか(笑)。

越川:ええ、あの時は無理矢理にブッ込んだカンジですね。ボーカルの彼(志磨遼平氏)は昔から一緒にやってるんで、僕の音の大きさには慣れてる人ですけど(笑)、それでも今回のツアーでは、ライヴの箱の大きさの問題で一度だけ「今日はそれ無理だわ」って言われたことありましたね。そのときはもちろんアンプの音は下げて、マーシャルのPIGにメナトーンのPIG(※17)を繋ぐ、っていうまったくワケの分からないセッティングになったんですが(笑)。

——本物のアンプに、そのシミュレート・ペダルを繋ぐっていう(笑)

越川:ギター弾く時に、強くアタックしたときと弱くアタックしたときのギター本体の鳴りって当然変わるワケじゃないですか。おそらくアンプにも似たようなそういう現象ってあると思うんですね。スピーカーに強い信号を送ったときと、弱い信号を送ったときの鳴りの違いというか。僕は強い信号がスピーカーに送られていて、スピーカー側が「いやいやもう無理無理」ってカンジでギッシギシ言いながら鳴ってるような音が好きなんですよね。

——じゃあ、今は越川氏のギターの音っていうのは、アンプが作る音、と考えてもいいわけですね?

越川:そうっスね。オーバードライブとかは足下に置きたくないってカンジです。

——でも空間系なんかは使いますよね?

越川:必要な時があるんで、いろいろ使ったりはしますけど。一番多く使うのはフェンダーのリヴァーブ・タンクです。ただどうしても音が丸くなるっていうか、そういう面は逃れられないんで。そういえば昔ミラノのエコー・チェンバーを持ってたこともあるんですが、ビンテージ機材なんでいっつもトラブル続きなんですよね(笑)。今はもう(エレハモ)HOLY GRAILを差すことがあったりなかったり、という程度です。

——空間系を必要とする頻度はそれほど高くない?

越川:ええ。なるべくならなくしたい、と思ってますね。

——先ほどからお話をうかがってて、やはり越川氏は他のギタリストと同じことはしたくない、っていう感覚が強いですよね?

越川:ええ。あのー、日本ってオリジナルそのままの状態って言うんでしょうか、売ってるそのままの状態の製品をそのまま使うっていう伝統的なものが濃いんじゃないかと思ってるんですね。

——いわゆる「吊るし」の状態、ということですよね。

越川:そうです。ただ僕は、自分オンリーの音を追求するんだったら、吊るしそのままの商品の組み合わせでは限界があると思うんですよ。新製品の説明文を読んで興味を持つことも多いんですけど、自分が使った時に自分の期待通りにはならないことも多い。

——あー、僕は結構新製品のキャッチコピーに騙されちゃいますね。それでKEMPER買ってしまったり(笑)。僕がKEMPERに興味持ったのはジョニー・マーが「KEMPERだけでアルバム1枚作った」って話を本人から聞いてしまったせい(※18)なんですが(笑)。

越川:KEMPERは僕も興味ありますね。結局大量に機材を試してみた結果、いい機材ってのはギターを選ばないんですよね。とくにアンプがそうですよね。例えば1960年製のレスポールを持ってたとして、それを持ってスタジオに行って、ジャズコ(ローランドJC120)で鳴らしたとして。その時の音って、結局ジャズコの音なんですよ(笑)。

——ああ、とってもよく分かる例えですね(笑)。

越川:それもあって、自分が満足できるアンプが何かを自分で徹底的に考えて、見つけ出して、ギターのほうはある程度満足いくカッコいいギターであればいいや、と思うようになったんです。最初にそう思い始めたのはアキマさんのアンプを使った時なんですけどね。

——もちろんアキマさんのおっしゃることもそうですけど、アンプの重要性は、今やっと世間に認知されてきたんじゃないかっていう認識もあります。

越川:そこに皆に気付いて欲しい、と僕も思うようになりましたね。電車に乗ってるときなんかに、たまーにコンボアンプを手で持って汗だくで移動してる人を見かけると、「おーそれそれやっぱソレだよね」って凄く共感してしまうんです(笑)。その人は絶対そのアンプの音が必要だから持ち運びしてまでも使うわけで。そんなのもあって自分でチューンナップする、っていう方向に向かうようになったんですよね。真空管をいろいろ変えたり、アンプの回路いじったり、エフェクター自作してみたり。


(Vol.4へ続く)




※14 200アンプ:
越川氏が2015年に参加したドレスコーズのツアーにて、氏はマーシャルの200Wアンプ「MAJOR」初期モデル(通称「PIG」)を使用。このときのドレスコーズのメンバーは志磨遼平(Vo.)、越川和磨(G)、有島コレスケ(B)、中村達也(Dr.)の4ピース。同ツアーの最終公演は2015年12月末に東京ZEPP DIVERCITYにて行なわれたが、この日の模様はDVD・BLU-RAYで2016年5月11日に発売された。ちなみにマーシャルのMAJORには大別して2種類あり、1967年製造の初期型(2インプット)と、それ以降の後期型(4インプット)では回路もコントロールもまったく別物。



※15 ミック・ロンソンの音:
ミック・ロンソンは1970年代、グラム・ロック時代のデヴィッド・ボウイのバンド・ギタリスト。マーシャルMAJOR初期型と、TONE BENDER MK1を使用したことで知られる。越川氏も筆者も、共に大好きなギタリストで、ロンソンの使用機材やプレイに関してよく意見交換をしています。


※16 アタック、サステインetc:
例えば野球でホームランを打った時の打撃音を日本語では「カキーン」と表現するが、これを音声科学の用語で説明するとき、「カ」の部分がアタック成分、「キ」の部分がディケイ、「ー」の部分がサステイン、「ン」の部分がリリース、と分類できる。

※17 メナトーンのPIG:
ビルダーのブライアン・メナ氏が主宰する米メナトーン・ブランドから発売された、マーシャル200Wアンプ「MAJOR」の初期モデルをシミュレートした歪み系エフェクター。ただし通常のラインナップにはのっていないペダルで、カスタム・オーダーのみで製造されるもの。


※18 ジョニー・マーとKEMPER:
映画『インセプション』(2010年公開/クリストファー・ノーラン監督)のサウンドトラックはハンス・ジマーというサントラ界の巨匠が制作したものだが、ジョニー・マーはここにギタリストとしてフルで参加。当方がインタビュー取材にてこの時の様子を聞いたときに、ジョニー・マーは「アンプはほとんど全部KEMPER」と証言。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

category

関連リンク