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越川和磨 SPECIAL INTERVIEW Vol.1

2016/05/30

SPECIAL INTERVIEW Vol.1

 2003年結成、全力でロック・シーンを駆け抜け、2011年の武道館コンサートで美しく散ったバンド、毛皮のマリーズのギタリスト、越川和磨。ミュージシャンからもファンからも「西くん」という愛称で親しまれる彼は現在、元BEAT CRUSADERSの日高央らと共にラウド・パンク・バンド THE STARBEMSのギタリストとして新たなるバンドの可能性を探り、また旧友・志磨遼平(元・毛皮のマリーズ)率いるドレスコーズへの参加でも知られる。この4月末に発売されたばかりのシシド・カフカの新作でも激しいギターをかき鳴らしている彼だが、実は「ディープな」と形容せざるを得ない程の、ブリティッシュ・ギター・サウンドの求道者でもある。近々は自作エフェクターからアンプ回路のモディファイに至るまで自身で手を加えるという越川和磨氏の、終わりの無い探究心/機材へのこだわり/サウンド・システムについて、集中的かつフランクに語ってもらった。


(取材・文●大久達朗/Buzz The Fuzz)



越川:イシバシのあのコラム(※1)、全部読みましたよ。

——えっ? あっ、そうですか……いやぁ有り難うございます(笑)。

越川:あーやっぱり最後はデヴィッド・ボウイのネタなんや、と(笑)。

——お恥ずかしい(笑)。あのコラムもそうですし僕の個人ブログ(BUZZ THE FUZZ)もそうなんですけど、70年代のロックとかギターに興味ない人にはどうでもいいっていう内容だろうってことは自覚してるつもりなんですが。

越川:まあ「マルチエフェクターでOK」ってタイプの人には確かにどうでもいい内容かもしれませんね(笑)。でも今僕は真空管とかトランジスタとか、そういう部分に行き着いてしまって。

■ファズの歪みとアンプの歪み



——おっ、いいスね。では本題に入りますが、まず最初は越川和磨にとってのファズの必要性、という点からうかがいたいのですが。

越川:まず自分でギターを弾くようになって、激しい歪みの音を最初に意識したのはストゥージズの音なんですよね。まずあの音を出したいな、と思って。

——おー、まさしくぐしゃぐしゃなファズの歪みですよね。ジェイムス・ウィリアムソン(ストゥージズのギタリスト)はマーシャルSUPA FUZZ(※2)使いだったようですが。

越川:おー、そうでしたか。結局そこもTONE BENDERに行き着いちゃうんだ…… でも当時はそんなこと全く知らなかったし。で、とりあえず自分で一個歪みを入手しよう、となって。ラムズヘッド……だったかな? 何だったか詳しくは覚えてないんですが、チキンヘッドのノブのついたBIG MUFFを入手したんですよ。それからその後にもHONDA SOUND WORKSのファズなんかを入手して。

——どちらも激歪み、っってカンジですか?

越川:いや、HONDA SOUND WORKSの丸いやつ(※3)は、そんなに歪むカンジでもなかったです。その代わりレベルがもの凄い大きくなるんですよね。それからその後もSOBUTのファズとかいろいろ試してみたんです。ただ、思うような音のものには巡り会えてなかったですね。もっとビービー鳴ったら面白いのに、とか、もっと耳に痛いカンジのほうがいいのに、とかいつも思ってました。

——なるほど、ある意味あえて「使い勝手の悪い音」を探しまくったような?

越川:そう、「使える・使えない」のその境界線ギリギリの音、みたいなところが欲しくて。

——今でも越川氏のペダルボードにはよくBIG MUFFが載ってますよね?(写真は2015年11月時点での越川氏のペダルボード)

越川:はい。BIG MUFFのいいところって、歪ませるのもそうなんですけど、音を尖らせるのではなくて、音を丸めるっていう目的で使える、と思ってるんですよ。

——なるほど。ダークな音ってBIG MUFFのいいところですよね。

越川:わざとモーモーな音出したいってときに使えますよね。サスティンも伸びるし、音をブっとくできるし。だから歪み系というより、僕の中ではフィルター的な感覚なんですよね、マフって。

——ただ、マフ使いの人が皆言うことなんですが、結構アンプを選びませんか? アンプの選択肢が難しいというか、使うアンプによって全然ダメなことも多いというか。

越川:選びますね。アンプが歪んでる状態ではもうダメですね。マフとの組み合わせで今一番いいなって思ってるのは、歪んでない状態でのVOX系のアンプに入れた音ですね。やっぱり歪んでないアンプで鳴らしてあげるのが一番ファズの良さを出せると思うんですよ。ジャズコ(ローランド“JC-120”)なんかで使うのもアリだし、実はベース・アンプでファズの歪みを出すのも結構アリだなと。所謂マーシャルとかオレンジとか、ロック・ギターの代名詞的な歪みを産むアンプとBIG MUFFとの相性は良くないと思うんです。折角ファズで音を汚したのに、汚れたアンプの中にそれを注いでも、元のヨゴレがどんなだったかもう分からなくなる、っていう。マフの音を綺麗に出すのならアンプの特性はいらん、むしろ邪魔じゃん、って思ってて。

——クリーンで、レンジもヘッドルームも広いアンプが必要だ、と。

越川:そういうのに気付いてから、僕はアンプを2台使うようになったんですね。片方のアンプはアンプの歪みをそのまま使う。で、ファズを使うときはもう1台のクリーンなアンプでファズを経由した音が出るようにして。(※4)

——アンプ2台への分岐は?

越川:最初はBOSSのチューナーを使って分けてましたね。今はもう違うんですけど。

——今のスターベムズ(※5)でライヴする時もそういうアンプ2台のシステムですか?

越川:いや、スターベムズではアンプのチャンネルを変えて対応します。基本的にはアンプの歪みで音を作って、ファズを踏むときはアンプをクリーンに切り替えて、それからファズを踏むっていう。だから切り替えるときにフットスイッチを2ケ踏む必要があって、ちょっと面倒臭いんですけどね(笑)。

——今ならアンプのチャンネル切り替えもできるスイッチャーがあるので、もうちょっと楽できそうですが。

越川:いや、やっぱり現物をバン!バン!って踏みつけたいんですよ(笑)。エフェクターを踏んでもいないのに音が変わる、っていう感覚があんまり好きじゃなくって。全部自分の足下を実際に自分で操作するのが基本です。2回踏まんといけないのでちょっとタイムラグが出来ますけど、そのタイムラグもまた楽しいっていうか。

——もう片方の菊池さん(スターベムズのもう1人のギタリスト)の足下はどうなってるんでしょう?

越川:彼はチューナーのみですね(笑)。前はもう1個、僕が作ったブースターも繋げてましたが、それだけっスね。

——あ、自作ブースターに関しては詳しく知りたかったんで後でお聞きしますが、その前に聞きたいのは、菊池氏は音量調整なんかは?

越川:全部手元だけですね、彼は。

——なるほど。で、越川氏の歪み成分はしばらくは「アンプかマフか」という時が長かった感じですかね。

越川:そうですね。で、そんな感じで月日が流れ(笑)、あるときMANLAY SOUNDっていうブランドに出会うわけですよ。

——あらら(笑)。あのあやしげなスペイン製のファズですね。どうですかMANLAY SOUND? 自分で言うのもナンですが、かなり使いにくいファズじゃないですか?(註:インタビュアーはMANLAY SOUND製品の共同開発者ですが、越川氏は当方と連絡を取るようになる前からMANLAY SOUND製品を知っていたとのこと)

越川:使いにくい。だからいいんです。あれが使いやすいファズだったらピンとこなかったんでしょうね。すぐには使いにくいファズだから、逆に僕には使い勝手がいい、というか、使いがいがあるんじゃないですかね。

——どこのツマミをどうセッティングするとどういう音が出るか、っていうのをひたすら研究する時間が必要になると思うんですね。

越川:そこもまたいいんです。天気によって音が変わるとか、季節によって音が変わるとか(笑)。

——アハハ。そこは確かにそうなんですよね。一番大きなポイントは、竿(ギター)変えると音がホントに変わっちゃうっていう点かなと思ってるんですが。

越川:変わりますね。それにもしギターが一緒でも、手元のボリュームのメモリが1違うだけで音がガラっと変わる.ピッキングの強さでも音が変わる。そういう点がもうたまらないですね。

——そういえば65 BENDER(※6)だと、ギターのボリュームは10とか9よりも7くらいの時のほうが音太いんじゃないかって思うこともありますね。

越川:僕がアレ使うときは、ギターのボリュームは8以下、ですね。フルの状態であのファズに送ると、潰れる量が多すぎるんです。潰れすぎて、逆に音が引っ込んじゃう。手元で下げて、いわゆるスイート・スポットを探ってからファズに送ってあげるカンジです。

——スターベズムの場合は激しいステージだということもあって、なかなか手元の微調整に気を使う余裕もなさそうに思えますが。

越川:ええ・・・もうそこは、失敗の日々の連続です(笑)。仕方ないです。ああいう古典的なアナログなシステムを使おうとしたら、もうそこは仕方ない。

(Vol.2へ続く)





※1 イシバシのコラム:当Ishibashi.co.jp内にある、英国産ファズや英国産アンプに関する連載コラム「MADE IN ENGLAND〜歴史と伝統の英国サウンド」のこと。



※2 マーシャルSUPA FUZZ
1967年に発売された、英マーシャル製のファズ・ペダル。ブランドこそマーシャルの名を冠したペダルだが、SOLA SOUND社のOEM供給によりまかなわれた製品で、その回路はTONE BENDER PROFESSIONAL MK2と同じものだった。イギー&ザ・ストウージズの名作『ロウ・パワー』(72年)の裏ジャケ写真にて、そのファズを確認することができる。



※3 HONDA SOUND WORKSの丸いやつ:
同ブランドからは「韓国のお茶碗をイメージした」という円形の筐体で、BIG MUFF系の歪みをもつ「MAD FUZZ」(写真)、シンエイのオクターヴ・ファズ系の歪みを持つ「CRAZY FUZZ」、モズライトのFUZZRITE系歪みをもつ「ISO FUZZ」がラインナップされていた。


※4 アンプ2台:
氏の使用アンプは日々変更され、定番的に決まったものはないが、写真は2016年4月、NICO Touches the Wallsとドレスコーズの2マン・ライヴに出演した際に越川氏が使用したアンプ。白いコンボのマーシャルは、内部回路を大幅に改造したもので、本人いわく「VOX AC30的な音」。またもう1ケのオレンジのヘッドも回路は全く別なものに改造されたもので、こちらは「MARSHALL MAJOR的な音」。


※5 スターベムズ(The Starbems):
2012年12月、元BEAT CRUSADERSの日高央を中心に結成された、ツイン・ペダルとトリプル・ギター(現在はツイン)の大迫力ラウド・パンク・バンド。パワー・ポップのメロディーに、メロディック・パンクの性急性、更にハードコア・パンクのアレンジやアティチュードを兼ね備えた彼らは2013年にファースト・アルバム『SAD MARATHON WITH VOMITING BLOOD』をリリース。USレコーディングを経て2014年秋には2作目のアルバム『VANISHING CITY』をリリース。メンバー・チェンジを経た現在のラインナップは日高央(Vo)、越川和磨(G)、菊池篤(G)、高地広明(Dr)、山下潤一郎(B)。公式HPは http://www.thestarbems.com/


※6 65 BENDER:
MANLAY SOUNDブランドによるTONE BENDER MK1クローン・ファズ。企画・デザイン・回路やサウンドに至るまで、東京在住の筆者とスペイン・バルセロナ在住のプロ・ギタリスト兼ペダル・ビルダーのROMAN GILしのコラボ作業で製品化されたもの。「60年代当時と同じ回路」で製造されたファズ各種をラインナップ。越川氏が所有する65 BENDERは2012年に10数ケのみ製造された限定版で、さらにその中でも2ケしか作られていない「大型メタルケース」版。MANLAY SOUNDの65 BENDERは現在は小さな改良を経て「RONNO BENDER」の名で発売されている。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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