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Celebrities with Hiwatt (1)

2016/01/09

Celebrities with Hiwatt (1)

 これまでハイワット・アンプのユーザーに関して、ザ・フーのピート・タウンゼンド、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモア、キング・クリムゾンのロバート・フリップ、そしてレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジといったギタリストを詳しく紹介してきましたが、今回はその他の著名ユーザー/有名なハイワット・サウンド、という見地でいくつかの例をご紹介してみようと思います。



 まずは1969年。おそらくハイワットのアンプが世界中のロック・ファンの目に触れた最も多い例であると思われるステージの様子です。69年6月8日、ロンドンのハイドパークで行なわれたローリング・ストーンズのフリー・コンサート。ブライアン・ジョーンズというリーダー的ギタリストが脱退(このコンサートの直前に急逝)したストーンズにとって、2年ぶりのコンサートであると同時に、ミック・テイラーというバカ上手の2代目リード・ギタリストのお披露目コンサートでもありました。

 そうしたブリティシュ・ロックに関するウンチクはいろんなところで既に書かれていることですからご承知の方も多いかと思われます。このフリー・コンサートには観客が30万人集まったそうですが、ステージ上にこれでもかと山積みされたアンプは(ベース用、ギター用共に)ハイワットDR103とハイワット・キャビネットでした。実はこの日のコンサートには(当時新人だった)キング・クリムゾンも前座で出演していますが、彼らも同じハイワットのアンプを使用しています。

 SGを使うミック・テイラー、フライングVを使うキース・リチャーズのツイン・ギターという鮮烈でフレッシュなバンドの見た目もそうですが、そのサウンドに是非ご注目ください。ハイワット独特のパーカッシヴでパンチのあるサウンドが聴こえますよね。ハイワットの特徴のひとつに「音が早い」という点が上げられますが(そのあたりはギタリストそれぞれによって感じ方の違いがあるとは思いますが)筆者的には「うわっ、出音が早い!」と感心してしまうようなギター・サウンドです。

 写真にもあるように、この日のステージ上の機材はハイワットから提供されたものでした。ストーンズのメンバーが自ら用意したというワケではなく、恐らくレンタルか何かで一式新しいものがこのコンサート用に用意されたものだと考えられます。よってキーズ・リチャーズやミック・テイラーが「ハイワット・アンプのユーザーだ」というわけではありませんが、彼らが間違いなくハイワットを使って出した音、それを確認できるというだけで貴重ですよね。

 完全に余談となりますが、この日デビューだったミック・テイラーを指して「緊張しすぎてリズムがずれている」と評した人がいますが(註:当時ストーンズの取り巻きで、後にストーンズの伝記本の著者となるトニー・サンチェスという人)、動画を見ればおそらく誰でもお気づきのとおり、うーん、ミック・テイラーはチューニングもあってませんよね(笑)。



 さて、キース、ミックとくればもう1人のギタリストにも触れない訳にはいきません。こちらの動画はロン・ウッドがハイワット・アンプを用いて行なったライヴの模様です。1970年12月7日、ロンドンのマーキー・クラブで行なわれたフェイセズのライヴです。ロン・ウッドは当時お気に入りだったという真っ赤なストラト(このギターは後に盗難にあってしまったそうですが)をハイワット・アンプで鳴らしていますね。当時のロン・ウッドの足下事情はちょっと資料もなく分からないので恐縮ですが、おそらくアンプ直ではないかと考えられます。ここでもまたしても“ハイワットの素の音”が聴こえます。

 今とは時代が違う、と言えばそれまでですが、当時はギターとアンプでとにかく演奏する、それだけでバンドが世界を席巻してしまった時代です。なんといってもこのボーカリスト(ロッド・スチュワート)の素晴らしい歌、ロン・ウッドのギター、ケニー・ジョーンズ&ロニー・レインのリズム隊(そういえばロニー・レインはここでカスタムメイドのゼマイティス・ベースを使用していますね。後にロン・ウッドもゼマイティスを使用するようになることはご承知の通りかと思われます)、そしてイアン・マクレガンのファンキーなオルガン。それだけでフェイセズというバンドは十分に成り立ってしまうバンドでもありました。

 ロン・ウッドも「常にハイワットを使用」したというギタリストではありません。フェイセズ時代、そしてストーンズに参加するようになってからも、彼はフェンダーのアンプを多く用いていたようですが、モデルは常に変動していて、固定されてません。マーシャルを使ったことも、フェンダーのデラリバをフル10にしていたことも、そしてアンペグのV4を使っていたこと(https://www.youtube.com/watch?v=m4PXMCCTMwM)もあります。アンペグを使ったときはかなりトレブリーな歪みですね。

 また、ロン・ウッドはスタジオでのレコーディングに際してはデラリバやプリンストン、バイブロチャンプといった小型のフェンダー・コンボを多用したことでも知られます。つまりスタジオでは小さなアンプをクランクさせ、ステージでは大音量を必要とする際にマーシャルやハイワットを使った、と考えられます。

 ちなみに、動画中でロン・ウッドが使用したハイワット・アンプは、1969年(当時まだスモール・フェイセズを名乗っていた時期)にロン・ウッドが購入したアンプでした。まだ当時はデイヴ・リーヴスが1人でアンプ製造を担っていた時期で、内部も外部もすべてデイヴ・リーヴスが組み立てたカスタム・アンプです。が、その外見も中身も、ハイワットの標準的モデルでもあるDR103と基本的に同じものです。ただし、ロン・ウッドが使用したこのDR103には、アンプの裏に特別にスイッチが設けられてあり、これは出力を半分(50W)に下げるためのスイッチだったとのこと。




 このアンプはその後ロン・ウッドから別なギタリスト(ジェネシスやピーター・ガブリエルのサポート・ギタリストだった人物)を経て、現在はイギリスに住むコレクターが所持し、今も現存しているとのことです。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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