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TONE BENDER HISTORY (16) - JUMBO & SUPA -

2015/12/15

TONE BENDER HISTORY (16)

 見た目も名前もジャンボ。それまでのTONE BENDER(MK3)と比べて幅が2cmほど広くなったと同時に、それまでなかった「COLORSOUND」という新しいブランド名をまとった新しいTONE BENDERは70年代の中頃に登場しました。
 すんごい細かいことを書けば、最初に「JUMBO」が出たときは、写真のように銀色の筐体に青と白の2色でペイントがされており、そのまま読めば「TONE BENDER JUMBO」となります。しかし、製品カタログ等を見てもやっぱりこのファズの名前は「JUMBO TONE BENDER」で統一されていたようです。まあ名前なんてどうでもいいことですけど(笑)。

 なお、JUMBO TONE BENDERが発売された当時のCOLORSOUND製品の筐体の中は、共通して白くペイントされており、その中に製造年月日が黒いスタンプで印字されるようになりました。これでやっと「このTONE BENDERが何年製か」を誰が見てもハッキリ分別できるようになった!ということにはなりますが、とてもとても残念なことに(笑)このスタンプのインプがどうもはげ落ちやすいインクでして、製造以来40年ほどを経た現在となっては、このインク・スタンプが読める状態で残っているものは結構稀です。

 このワイドケースのJUMBO TONE BENDERは何種類もの外装バリエーションが存在します。銀色に青白でプリントされたもの以外にも、写真で掲載したように別なカラーリングのものもあります。筐体トップ部分に段差が付いた筐体は70年代後半以降に採用された新しいケースです。

 それからこれも些細な事ではありますが、実はTONE BENDERにとって、大型のワイドケースに変更されたこの時期にもうひとつの「変更点」がありました。それは「インプット・ジャック」と「アウトプット・ジャック」の位置が逆に配置されるようになった、という点です。

 68年に発売されたTONE BENDER MK3は、正面から見た時にインプットが左に、アウトプットが右にあります。ええ、こんにち的エフェクターの観点から言えばこれはあきらかに逆ですよね。そんなユーザーのニーズを踏まえたかどうかは定かではありませんが、ワイドケースになったTONE BENDERはインプットが右に、アウトプットが左に配置されるようになりました。

 右か左か。「エスカレーターに乗った際に、どちら側に立つか」というあの悪名高き案件でも知られる通り「世界標準といつも逆」なことで有名なイギリスですが(笑)、大昔にイギリスで製造されたギター・エフェクターはインとアウトの右左が逆という例が多くあります。イギリス製ワウも左右が逆でした。TONE BENDERなんてずーっと逆でした(笑)。そういえば昔のイギリス製バイクはブレーキとギアチェンジの位置も左右逆で(ブレーキが左側)、今でもその「逆の操作」を楽しむという旧車愛好家は多数いますし、当時そのままのスタイルで今も新車バイクを製造するマニアックなオートバイメーカーもあります。ですがいかんせん「マニアック」な類いのもので、一般的にはもうそれらは「絶滅」したも同様ですね。すいません余談でした。

 コントロールはMK3と同じく、VOLUME、TREBLE/BASS、そしてFUZZの3つ。つまり3ノブのTONE BENDERです。しかし前述したとおりこちらのJUMBO TONE BENDERは回路にシリコン・トランジスタを3つ採用したものとなっており、ゲルマニウム・トランジスタを用いたTONE BENDER MK3初期バージョンとはやはり音が異なります。より中高域に密度の高い歪みが集中し、ジャージャーといった尖った歪みが前面に押し出されたような音です。

 さて、その回路ですが、トランジスタが3ケであるという共通点があることから、TONE BENDER MK3の回路のトランジスタをゲルマからシリコンに変えただけ、と思われる方も多いかと推測されますが、実はちょっと違います。前回の当コラムにて「トランジスタだけが変更されたわけではなく、もちろん回路もシリコン・トランジスタに併せてリファインされています」と書きましたが、実はこの「JUMBO TONE BENDER」も、あのBIG MUFFの回路を参考に作られたものであることがわかっています。

 エレハモ製BIG MUFFは、トランジスタを4ケ使った回路ですが、その入力ゲイン・ステージの回路を省略し、リファインしたものがこの「JUMBO TONE BENDER」にて採用されています。もちろん他の点でも細かな定数やパーツも(BIG MUFFと同じではなく)変更されています。ゲインステージをひとつ省略したことで、MUFFほど爆発的に歪むわけではなく、和音演奏でも芯が残る程度の歪みを生み出す回路、と言えます。

 さてさて、上記「JUMBO TONE BENDER」と時を同じくして、また全く別な回路を採用した新しいTONE BENDERも登場しました。「SUPA TONE BENDER」と名付けられたこちらのファズは、明らかにエレハモ「BIG MUFF」の回路を模倣したと思わしき回路となっています。シリコン・トランジスタを4ケ採用、という(70年代当時としては)もっともコンテンポラリーなファズ回路を採用した、というワケですね。上記「JUMBO」では「歪みは控えめ」に設定されながらも、こちらの「SUPA」ではMUFF同様に爆歪回路をそのまま踏襲した、と考えられます。

 ちなみに、こんなカンジで「BIG MUFF」の回路を模したファズという製品が70年代に世界中で発売されていたのは既知の事実でもあります。イギリスではこのSUPA TONE BENDERがそれにあたります。日本でもIBANEZ/MAXONブランドで発売されたOD-850やOD-801はBIG MUFFの回路を踏襲したものでした。

 前回も触れたように、この「SUPA TONE BENDER」は1988年に一時的に復刻発売されたことがあります。その際には「STEVE HACKET」のエンブレムが付いたものでした。70年代、まだ「プログレッシヴ・ロック・バンド」だった時代のジェネシスのギタリストであったスティーヴ・ハケット(同バンドには71年から77年まで在籍)は、当時公式のエンドーザーとしてCOLORSOUNDからエフェクター製品を提供されていたギタリストでした。ハケットは88年のこの復刻版を自身の足下で使用していたことがあります。

 最後にまた余談となりますが、この「SUPA TONE BENDER」は70年代当時で最新とも言えそうなファズ回路(=MUFF回路)を採用しながらも、1点だけオールドファッションな点を残していました。それは何か。せっかく「JUMBO TONE BENDER」でイン/アウトのジャックを世界標準にしたのに、SUPA TONE BENDERではまたしても(!)インが左に、アウトが右に、という「イギリス配置」になっていたのです(笑)。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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