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TONE BENDER HISTORY (15)

2015/12/09

TONE BENDER HISTORY (15)

 これまでこのコラムでは、BRITISH PEDAL COMPANYから現在復刻発売されているTONE BENDER各種、それとその原典にあたる60年代のオリジナルTONE BENDER、そしてそれらに関連の深いファズ・ペダルなどを紹介してきましたが、実はTONE BENDERファミリーというやつはそれだけに留まりません。ここでは「それ以外」に相当するTONE BENDERをさらっと紹介してみたいと思います。

 ゲイリー・ハーストが開発、製造に関与したTONE BENDERのMK1からMK2まで(3種)、それとMK3(3ノブのTONE BENDER)は前述した通りですが、その後もTONE BENDERはあらゆる模様替えをしながら新製品が発売され続けました。もちろんそれは「60年代とは比べ物にならないほど」ファズの需要が大きくなったことにも起因します。よって、手作業でシコシコとハンドメイドする時期が終わり、需要に答える為に大量生産する必要もありました。

 1970年代前半、最初の「改革」がもたらされました。既にMK3ではプリント基板を用いる回路となっていましたが、大きな仕様変更として「シリコン・トランジスタを用いる」回路に変更になります。年代としてはおそらく1974年前後と考えられるのですが、正確なデイティングは現在わかっていません。というのも、「外見は何も変わらずMK3のまま」だったことに加え、古いポットを使用したブツも存在したためポットデート等からも製造年月日が断定できないからです。

 外見は何も変わらない、と書きましたとおり、結果TONE BENDER MK3には「ゲルマニウム・トランジスタを用いた前期」と「シリコン・トランジスタを用いた後期」の2つに分別されます。また、トランジスタだけが変更されたわけではなく、もちろん回路もシリコン・トランジスタに併せてリファインされています。よって、同じTONE BENDER MK3でもその出音は異なります。ええ、誰がどう見ても紛らわしいですよね(笑)。ですがこの紛らわしい時期はほんの少しの間だけで、1975年頃には一気にTONE BENDERのラインナップはリニュアルされました。つまり、外見を大幅に変更すると同時に、中身もリニュアルされたのです。

 まず、それまで「MK3」、もしくは一部筐体のペイントを変えた「MK4」と呼ばれるTONE BENDER(註:いま当方は気軽に「MK4」という表記をしましたが、これは極めて現存数が少なく、ほぼ入手が不可能と思われるレアTONE BENDERです。とはいえ中身はMK3とまったく同じものなのですが)は一端ディスコンとなります。それに変わって新たに「JUMBO TONE BENDER」「SUPA TONE BENDER」という名のTONE BENDERが発売になります。これらは共に幅の広い大きな筐体に入ったものでした。この時点で、それ以前のTONE BENDERを「スリムケース」、それ以降のTONE BENDERを「ワイドケース」と呼んで区別することもあります。
 共にシリコン・トランジスタを用いたファズ回路ではありますが、「JUMBO」と「SUPA」では回路が全く異なります。

 JUMBO TONE BENDERは前述した「MK3のシリコン・トランジスタ版回路」をそのまま使用していますが、SUPA TONE BENDERは4ケのトランジスタを配置し、殆どエレハモ「BIG MUFF」に近い激歪みな回路になっています。それらのペダルの詳細は次回に譲りたいと思いますが、これらが発売された頃に、TONE BENDERというファズにとってはさらに大きな(そして話をややこしくする面倒くさい)チェンジがありました。それは筐体に印刷されたブランド名です。ちょっと話をまとめてみます。

 1960年代にTONE BENDERを発売していた会社はSOLA SOUND LTD.という会社でした(一番最初はゲイリー・ハーストという人が個人で製造・販売したものですが、ほどなくしてSOLA SOUND LTD.という会社の発売する製品となっています)。
 ところが1974年頃、JUMBO TONE BENDERやSUPA TONE BENDERが発売された頃になると、その筐体には「COLORSOUND」という名前が記載されるようになりました。COLORSOUNDはブランド名であり会社名ではありませんが、どういう理由かは知りませんけどとにかくそういう新しいブランド名の元にTONE BENDERが企画・開発・発売されることになりました。会社はSOLA SOUNDそのままなのですが。
 すでにこの頃になるとゲイリー・ハーストは同社と関係を持たなくなり、製品開発は自社内で行なわれていたようですが、それでもTONE BENDERは延々と発売されたということになります。つまり、TONE BENDERというファズは「発売元はCOLORSOUND、製造元はSOLA SOUND」となったわけですね。

 大きな筐体に入れられ、シリコン・トランジスタ回路を持った「COLORSOUNDブランドの」TONE BENDERは、基本的に前述した2種類のラインナップが存在しますが、ほぼ毎年のように外観のデザインが変更されています。当方の知る限りでもJUMBO TONE BENDERだけでペイントの違うモデルが5種類はあります。ただし、重ねてになりますが、中身は同じもの(笑)。よほどのコレクターさんでない限り、コンプリートする価値はあまりないだろうと言わざるを得ません。

 また、「歴史と伝統の?」などという御大層なタイトルが付いているにもかかわらず(笑)、実はJUMBO TONE BENDERやSUPA TONE BENDERにはそれほど有名な使い手がいなかった、という点も悲運といえるかもしれません。前者はエドウィン・コリンズ(元オレンジ・ジュース)が少しだけ、後者はジェネシスのスティーヴ・ハケットが使用したということで一応知られています。1990年代にはSUPA TONE BENDERのスティーヴ・ハケット・シグネイチャー・モデルという復刻品が発売されたこともありますね。しかししかし、スティーヴ・ハケットがSUPA TONE BENDERを使ってた時期はほんのわずかな期間だけでして、彼は足下にTONE BENDER MK2(MARSHALL SUPA FUZZ)とCOLORSOUND OCTAVATOR(オクターブ・ファズ)とSHAFTSBURY DUOFUZZ(日本のシンエイ製OEM製品でUNIVOX SUPA FUZZと同じもの)等を同時に並べて使用しているという人でもありました。

 というわけで、「COLORSOUND製」のTONE BENDERのお話は次回に続きます。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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