
いやあ2015年ももうすぐ終わりますねえ。コラムの連載開始からもう半年以上も経っているというのに、当欄で「2015年がどんな年だったか」を今更のように書くのも変な気がしますが、忘れないウチに触れておこうと思いまして、このネタを書きます。実は2015年は、英国ファズの歴史的名機、TONE BENDERが生まれて50周年という記念すべき年だったのです。
まずは、TONE BENDERの開発者ゲイリー・ハースト自らが2015年に制作した「GARY HURST MK1 TONE BENDER」。BPCはゲイリー・ハーストと今も懇意にしており、公式に協力関係となってもう長いことになりますが、ゲイリー・ハースト本人が回路を1人で手がけた、というモデルはこれが初めてとなります。見てお分かりのように、1965年に発売された最初のTONE BENDER(=MK1)を復刻したファズとなります。
ここで写真を見てお気づきになられた方もいると思いますが、一般に「TONE BENDER MK1」とされているものとは、ほんの僅かの、些細なデザイン上の違いがあります。それは「TONE BENDER」という筐体上部にプリントされたレタリングの書体のことです。実は1965年当時、この「TONE BENDER」という書体には2種類ありました。今回の復刻品のような「細くて2行にわけてプリントされたタイプ」と、「太い書体で1行でプリントされたタイプ」の2つです。今回の限定復刻品では、その前者のほうのデザインを踏襲して復刻したということになりますね。この復刻品ではハンドレタリング(日本語でインレタと呼ばれるもの)を採用しているので、こすると簡単にはがれます(笑)。なぜそんな脆弱なプリントにしたのか、と言えば、1965年当時そういう方法でロゴがプリントされていたので、それをそのまま復刻してみた、というわけです。


ここでひとつだけ裏話を明かしてしまいますが、以前英国本国から筆者のもとに「ユニオンジャック・カラーのTONE BENDER発売しようと思うのだけれど、どう思う?日本でも売れるかな?」なんていうメールを貰ったことがあります。で、生意気盛りの筆者はそのメールに即答しました「ダセエよそれ」と(笑)。いや、当方にも気持ちはわかるんですよ、その気持ちは。筆者だってユニオンジャックに思い入れもあったりします(日本人ですけど。笑)。でも、そんなドハデなカラーリングしたTONE BENDERって、観光客向けのお土産品にしか見えないチャチさがあって、個人的には我慢できなかったんですよね。ええ、これは100%個人の趣味嗜好の中での話ですが。
最後に、この「50周年記念限定版TONE BENDER」とは別に、BPCのスペシャル限定品として「WEM PEB BOX」というファズの復刻品も発売されています。このファズのオリジナルは、その名前からも推察されるように、1966年にWEM(ワトキンス・エレクトリック・ミュージカル社)から発売されたファズを復刻したものです。このWEM PEP BOXは66年にビートルズのジョン・レノンがアルバム『REVOLVER』のセッションで用いたものです。
ジョン・レノンがこのファズを使った、というのは写真が残されていることから間違いないだろうと思われますが、どの音源かに関しては証拠が存在しません。使ったけど、結局採用されなかったのではないか、という説も有力です。BPCの公式HPにはビートルズ「TAXMAN」の動画が紹介されていますが、実際に「TAXMAN」でリードギターを担当しているのはポール・マッカートニーで、しかもファズのかかった音ではありません。TATS
(BUZZ THE FUZZ)
ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。