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ROBERT FRIPP and HIWATT (03)

2015/11/17

■ROBERT FRIPP and HIWATT (Part. 3)


キング・クリムゾンとロバート・フリップのお話、(一応)その最後の回です。ロバート・フリップが70年代に使用したアンプはハイワットDR103でしたが、実はフリップ以外のメンバーもそろってハイワットのアンプを使用していました。

1974年、解散直前のキング・クリムゾンのラインナップはロバート・フリップ(g)、ビル・ブラッフォード(dr)、ジョン・ウェットン(b)、デヴィッド・クロス(vl)という4人でしたが、ドラム以外のメンバー全員が同じくハイワット・アンプを使用しています。
 参照動画をひとつ貼ってみます。この動画は1974年3月22日、フランスのTV番組に出演した際のキング・クリムゾンのライヴ映像ですが、フリップが2台、ベースのジョン・ウェットンが3台、そしてバイオリンのデヴィッド・クロスが2台のアンプヘッドを用いています。このうち、デヴィッド・クロスがバイオリン用に用いたアンプ(HH IC-100という名の英国製トランジスタ・アンプ。これはTレックスのマーク・ボランが長年使用したことでも知られるモデルです)以外、全てハイワットのDR103が用いられています。

 フリップの2台のハイワットのうちの1台、それからデヴィッド・クロスのハイワットは、それぞれメロトロン(キーボード)用に用いたと思わしきアンプですが、ギターもベースもキーボードも全部ハイワットで鳴らしてしまうあたりが、このアンプの「多様性」を象徴しているかもしれません。以前ジミー・ペイジの項にても触れましたが、70年代のハイワット・アンプの裏面には「AP」というコードが印字されており、このAPは「ALL PURPOSE(=全ての楽器で使用可能)」を指しています。その文字通りの使用例でもある、ということになりますね。

 この日のライヴの時のフリップの足下は、ワウ(CryBaby)、ファズ(ギルドFOXEY LADY)、ボリューム・ペダル(FARFISAというメーカーのものと、独シャーラーのものの2台)、そしてワトキンス製のテープエコー「COPICAT」です。
 ちなみに、ロバート・フリップはスピーカーネットの貼ってあるキャビネット・セット、それからネットが貼られてないキャビネットのセット両方を詰んでいます。彼のスピーカー・キャビネットももちろんハイワットのキャビネットですが、スピーカーはスペック状態(=フェーン社製スピーカー)ではなく、エレクトロヴォイス(EV)製のスピーカーだとのこと。本人いわく「新しいものをカスタムメイドしてもらったのだが、これには感動した」とのこと。
 エレクトロヴォイス社はPAスピーカーの世界で有名なアメリカン・メイドの音響機器メーカーですが、スピーカーは「クリアでメリハリのある」という評価がされることが多いですね。周波数特性的にも低音を余すところ無く表現することで人気が高いようです。

さて、サウンドの面でも最高なロバート・フリップ先生ではありますが、やはりなんと言ってもロバート・フリップといえばその変態的なプレイにこそ真髄があると言えるでしょう。フリップの場合はただメチャクチャな演奏をしてああなった、というタイプではなくて、何から何まで完全に理詰めで自分のフレーズもアレンジもサウンドも構成する、という頭デッカチな人です。ハッキリ言ってバケモンです(笑)。数多くの著名ギタリスト/ミュージシャンをとりこにしてしまうそのバケモンですが。以下、アンプ以外に関するフリップ先生の「コダワリ」の部分を列記してみます。ただし、いずれも74年のインタビューからの抜粋なので、74年時点でのコダワリであることを予めご理解下さい。
 使用ギターはギブソン・レスポール・カスタムで、1959年製のもの。オールマホ・ボディーで3つのPAFが搭載されたギターですが、ピックアップ・カヴァーはすべて外されています。
RF:グレッグ・レイクが教えてくれたんだ、カバーを外したほうがいい音になると。私本人にはどっちがいい音なのかいまだに判ってはいないのだが、一度外してしまったものだから、以降そのママにしてある。戻すのが面倒くさいだけだ。

 弦は、ジョン・アルヴェイ・ターナー社のライトゲージを使用。
RF:ただし3弦の部分だけはミディアムゲージの2弦用を用いる。ほとんどのギタリストが重要視することではないが、細い弦だとあまりにも緩いテンションのために正確なピッチを紡ぎ出すことが難しい。しかし私は3度や10度といった和音を多く使うものだから、どうしてもセットのままでの3弦を使うことが許せなくなったんだ。昔は、弦高もなるべく低くしよう、と考えてたものだが、最近ではもっと高く、中の上、というくらいになったね。
ジョン・アルヴェイ・ターナー社はイギリスの老舗弦メーカーで、主にアコギ用の弦、バンジョー、マンドリン等の弦を取り扱うブランドです。当時はライトゲージでも3弦は巻弦でした。それをいやがって、3弦でもプレーン弦を用いたという意味。また、本稿冒頭でのライヴ動画でもフリップ先生のギターがドアップで映し出されますが、たしかに弦高がけっこう高かったことが確認できます。
 エフェクターに関して。フリップ先生はピート・コーニッシュがカスタマイズしたペダルボードにファズ、ワウ、ボリュームペダルを組み込んで使用していましたが、ファズは前述したようにギルドFOXEY LADY、ワウはイタリア製CryBaby、ボリュームペダルはFARFISAというブランドのものでした。このFARFISAというブランドのボリュームペダルはギター用ではなく、オルガン等用に発売されたもの、と推察されます。
??そのボリューム・ペダルはどんなもの?
RF:私の知る限り、一番安いモノだよ。そして私が使った限りでは全ての面で納得のいく効果を生み出すものだ。たしかFARFISAのペダルだったと思う。私が使った中ではベスト・ボリューム・ペダルだね。完全に音をオフにできて、しかも可変幅もワイドに操れる。素晴らしいペダルだよ。
 とフリップ先生は一番安物の(笑)ボリュームペダルを絶賛しながらも、ファズやワウにはそれほどコダワリをもっていなかったようです。
RF:ステージ上では、私は3つのペダルをボードに設置する。ボリューム・ペダルと、ファズと、ワウ??まあファズとワウはゴミみたいなものだが、ワウはどんな種類のものなのかはわからない。(中略)ファズに関しては、どんなものでもそれほど構わない。他に気にするポイントが山のようにあるから。
??でも、あなたのサウンドと同じサウンドを欲しがる人にとっては、どんなファズを使っているかは重要なんじゃない?
RF:いや。私はどんなファズを使用したとしても、同じようなサウンドを出せるのだから。それは機材の問題ではない。

 たしかに、きらびやかなクリーンの出るハイワットのようなアンプと、FOXEY LADY(=トライアングルBIG MUFF)を使えば、誰でもフリップっぽい音には近づけます。が、フリップのようなフレーズを思いつきフリップのようなサウンドで演奏するのは、万人に出来る事ではない至難の業でしょう。とある著名ギタリスト(日本のギター仙人と呼ばれるあの方)はフリップを指して「それまで誰も演奏しなかったギターフレーズを初めて弾いた人」と評し、また別のある著名ギタリスト(といいますか、土屋昌巳氏のことですが)は「キング・クリムゾンからは音の外し方を学んだ」と言いました。

そうなんです。実はフリップのギターフレーズにはわざと音を外してる箇所があります。半音とかモードとかいう世界の話ではなく、1/4音以下の単位で音をあえて外してたりします。前述したとおり、フリップが正確なピッチにこだわるのは“ワザと”微妙な音の外し方をするためでもあります。歪んだサウンド=倍音成分をモリモリに盛り込んだサウンドだとその「外し」は顕著に耳に残りますが、その不協和音でさえ音楽に取り込むフリップ先生の音楽観は、恐ろしく深いことを思い知らされるのです。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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