smpl

ROBERT FRIPP and HIWATT (01)

2015/11/05

■ROBERT FRIPP and HIWATT (Part. 1)


 いやー、なんと来日しちゃいますね、キング・クリムゾン。公演は12月中旬なのですが、追加公演を除けばすでに10月の時点でほとんどのチケットがソールドアウトしているという熱狂ぶりです。スゴイですね。で、今回はそのキング・クリムゾン(以下KC)のギタリスト、ロバート・フリップとハイワット・アンプのお話を書こうと思いますが。

 日本ではKCの人気はもう絶大でして、「プログレッシヴ・ロックの頂点」に位置するグループと捉えられる機会も多いです。全世界的な評価で言えばあまりそういうことはないのが実情ですが、世界中に熱狂的なファンがいることは間違いありません。ですから2011年にギタリストのロバート・フリップが「音楽活動を引退する」と公表し、実際に数年間一切音楽と関わらなかったとき、世界中が悲しみに(笑)落ち込んだものです。で、「やっぱり復活するわ」となった2014年、世界中が狂喜乱舞(笑)したのも当然なわけですね。で73_RF02すから今回の来日公演のチケット瞬殺騒動も、なるほど当然だな、と思えるものです。

 一応知らない方のために軽く説明させて下さい。KCは今から46年前、1969年に結成されたイギリスのプログレッシヴ・ロックのバンドです。ええ、インターネット社会となった現在ですが、圧倒的なインパクトを誇るこのアルバム・ジャケットをご覧になった方、知ってるという方はお若い方でも多いだろうと思います。そのアルバムを出したバンドのことです。

 その後、もう何度も何度もメンバーチェンジを経て、74年に一度解散、81年に新メンバーで再結成、84年にまた解散、90年代に入ってからは「数年に1度」という頻度で復活しツアーに出たりもしましたが、それ以降はもう何がKCなのか、どこからどこまでKCなのか、誰にも断言できないほど複雑な活動形態となってしまい(註:「KCのコンサート」に、2つのバンドが出てきたりしたこともあったりしました)、今回来日するKCもなんとドラムが3人もいたりする変則編成ですが、もう70年代プログレッシヴ・ロックのトップ・ランナーだったバンドとは違う存在と言えるのかもしれませんね。

 余談が過ぎました。本題に入ります。KCがデビューした直後の頃、ロバート・フリップはほんの少しだけマーシャルのアンプを用いた時期があります(画像等でそれを確認する方法はないのですが、フリップ本人が「マーシャルを使用した」と発言してるので間違いないと思われます)。ですがその後、ロバート・フリップはアンプをハイワットに変更します。使用したのは100WのDR103で、このアンプは無改造状態のファクトリー・スペックそのままでした。同時にスピーカー・キャビネットもハイワットのものを使用しています。

 ロバート・フリップが自身の使用機材に関してインタビュー等で発言することは殆どありません。というのも、このロバート・フリップという人はインタビューとなると常にガッチガチの哲学者のような、良く言えば知的かつ文学的な、悪く言えば話し相手を必ずケムに撒くような面倒くさい受け答えしかしない人だからです(笑)。そこがフリップの素敵なところでもあるのですが。

 ですが1974年、あるインタビューにてフリップが自らの使用機材、そして機材評を語ったことがあります。そちらのインタビューは筆者の個人ブログ「BUZZ THE FUZZ」(リンク:http://thetonebender.blogspot.com)にて全文を公開していますので、もし興味ある方は参照して下さい。やたら長い文献なので読むのも疲れるだろうとは思うのですが(笑)、今回の本稿では、そのインタビューの中からフリップの独特のギター・サウンド、とくにハイワット・アンプに関する部分を抽出し、再検証してみたいと思います。

 69年から74年までの期間、フリップはエフェクターとして基本的に「ファズ」「ワウ」「テープ・エコー」「ボリューム・ペダル」、この4つを使用していました(これらのエフェクターに関しては、別途後述します)。ギター用のエフェクターといえばそれくらいしか存在しなかった時代ではありますが、それでも「プログレッシヴ」たらんとするロバート・フリップは、あらゆる可能性をこの少ない機材で探りました。

 そして、KCのごく初期の時期に少しだけマーシャルを使用していたのを除けば、彼の使用アンプは常にハイワットでした。写真等でフリップがDR103ヘッドを2台、キャビを4台使っている姿をいくつも見つけることができますが、そのうち1つのヘッドはギター用ではなく、フリップが時たま演奏するメロトロン用のアンプだったと思われます。

 たとえばレッド・ツェッペリンやMC5のような大爆音・ド迫力のロック・バンドであれば違うのでしょうが、キング・クリムゾンというプログレッシヴ・ロックのギター演奏の場合は、大きな音も小さな音も、歪んだ音もクリーンな音も、曲によって(もしくは部分的なフレーズによって)細かにコントロールする必要性があったと思われます。そんな時にハイワットのアンプが「とても有用だ」とフリップが自ら語っています。

??アンプはハイワットのスタックだよね。
RF:いろんな多面性をもったアンプだからだ。私がサウンドを変えたい、と思った時とても有用なアンプだとも言える。また同時に私は、エレキギターには本当は真空管アンプは不向きだ、とも考えている。

 この後半部分「真空管アンプはエレキギターには不向き」という部分にはやや読解に注意が必要だと思われます。フリップはアンプの歪みではなくファズの歪みを主に使った人なので、アンプは「エフェクトの乗りが良い」ことが重要だったのだと考えられます。フリップが使用したファズは、KC初期にはバーンズBUZZAROUND、中?後期はギルドFOXEY LADYでしたが、いずれもハイワット・アンプとの相性は抜群と言えるものでした。つまり、アンプ側はある程度クリーン・セッティングを念頭に置いていたことがうかがえるわけです。
 ですが60?70年代当時、トランジスタで大出力のアンプは非常に選択肢も少なく、当時フリップを満足させるアンプはなかったのだろうと思われます。それを裏付けるように、フリップは70年代後半以降になるとローランドJAZZ CHORUS JC-120を使用するようになりました。(この項続く)

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

category

関連リンク