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RANGEMASTER HISTORY (03)

2015/10/28

■TREBLE BOOSTER HISTORY (3)

 さて、ダラスRANGEMASTERとはどんな音がするエフェクターなのか。一番基本的なお話ではありますが、今回はそこに着目してみたいと思います。まずは、現在復刻版を発売しているBPCによる公式デモ動画です。例によってギターはハムバッカー(ギブソンES-339)とシングルコイル(フェンダーCS製ストラト)、そしてアンプはハイワットの50Wスタック、マーシャルのBLUESBREAKERコンボ、それから古いVOX AC30にてデモンストレーションしています。



 まずハイワットとハムの組み合わせの素の音。ドライ状態で甘くダークなブリティッシュ・サウンドですね。殆ど歪んでない状態ですが、RAMGEMASTERを通したとたんにエッジも出て、所謂ロックギターなサウンドになっているのがお分かりかと思います。この時、RANGEMASTERのツマミはフルです。
 動画の中で、マーシャルBLUESBREAKERを使った部分ではギターのコントロールを駆使して「クラプトンぽいサウンド」を試している部分もあります。もちろんこれは名作アルバム『JOHN MAYALL BLUES BREAKERS WITH ERIC CLAPTON』のサウンドを狙ったものですね。

 それから後半では、ストラトとAC30を使った部分もあります(推測ですが、このときデモ奏者はアンプの“ブリリアント・チャンネル”にプラグインしてるものと思われます。演奏中のフレーズでお気づきの方もいると思いますが、これはブライアン・メイのサウンドに似せてみよう、という意図をもって行なわれたのだと思われます(クイーンの「HAMMER TO FALL」を演奏してます)。面白いですよね(笑)。

 そういえば、時々ダラスRANGEMASTERを指して「オーバードライブ・ペダル」として紹介される機会もありますよね。この動画でもRANGEMASTERをオンにしたとたんグワっと歪んでいますので、確かに納得できる表現ではあります。しかししかし、昨今のオーバードライヴ系エフェクターと比べても、RANGEMASTERはそんなに単体では歪むエフェクターではありません。ここでひとつ参考動画を貼ってみたいと思います。



こちらの動画は1970年、ロリー・ギャラガー率いるトリオ・バンド、テイストがドイツのTV番組「BEAT CLUB」に出演した際のライヴ動画なのですが、この時ギャラガーは愛用のストラト、VOX AC30、そしてダラスRANGEMASTERを用いて演奏しています。

 テロップで一部見にくくなっていますが、アンプの上にRANGEMASTERが置いてあることが確認できますね。この動画の0:54の部分で、彼がギターのボリュームを絞りクリーン・サウンドに変化させ、1:03くらいから再度ボリュームを上げクランチの音に戻しています(ちょっと余談になりますが、ここまで彼はずっとストラトのセンター・ピックアップを使って演奏していて、音を再び歪ませた後にリアにチェンジしています。まるで“ワウを踏んだのか”と錯覚する程にトレブルがブーストされていますが、もちろんワウは使っていません。そしてギターソロ中間で今度はピックアップをフロントに移動させていますね)。

 何が言いたいかと申しますと、このロリー・ギャラガー死ぬ程カッコイイよね、ということに加え(笑)、ダラスRANGEMASTERはこういう音がするエフェクターです、といういいサンプルだということです。ストラトのPU全部の箇所で演奏され、さらにギターのボリュームを絞ることで音の表情を更に変化させる、その全てが収められているからです。ちなみにこの動画で確認することは出来ませんが、ロリー・ギャラガーはVOX AC30のノーマル・インプットを使用していました(ブリリアント・チャンネルではない、という意味)。

 オリジナルのAC30はマスターボリュームを持たないアンプで、しかもトップブースト回路を経由しないノーマル・インプット使用ですから、アンプ単体で歪ませるにはほぼアンプの出力をフルにしなければなりません。30Wとはいえ爆音で有名なAC30ですから、なかなか大変な(笑)所業ではあります。しかしこちらのテイストの動画でわかるように、ダラスRANGEMASTERはアンプがそれほど歪まないものでも、キッチリと美しいクランチをもたらしてくれます。これは「アンプのインプットをプッシュする」というブースターの基本性能に加えて、RANGEMASTERが「単体でも倍音を豊富に付加する」歪み要素も足していることを示しています。エフェクト単体で歪みを生むのではなく、アンプとの相乗効果で歪みを生み出すエフェクトだと言えます。

 RANGEMASTERはオンにしたとたんに圧倒的に音量がアップしてるように聴こえるのは、実際に音量をアップさせている(=ブースト)だけでなく、ギターに必要な音域に倍音を付加し、いわゆる「抜けのよい」部分をグワっと持ち上げてくれるエフェクターでもあります。

 以前にも触れましたが、上記ロリー・ギャラガーのサウンドにノックアウトされてしまったギタリストが、クイーンのブライアン・メイでした。ギャラガーを真似ることで、彼がシングルコイルのギターとトレブル・ブースターを愛用するようになったのは至極当然のことでもあります。

 また、同じくロリー・ギャラガーのサウンドにノックアウトされてしまった人に、ゲイリー・ムーアがいます。彼が16歳の時に見たテイストのライヴは彼にとって衝撃的そのもので、彼は生前何度もインタビューにてロリー・ギャラガーのことを話題にしていました。彼が復刻品RANGEMASTERを入手したのは彼の逝去の直前のことで、結局彼が実際にどれほど使用したかは計り知れませんが、「ロリー・ギャラガーのあのサウンドに憧れて、これを入手した」と本人が現BPCのスタッフに実際に語っています。

 また、ちょっと意外なRANGEMASTER使いのギタリスト(でも、ああ成る程、とも思えますが)に、ローリング・ストーンズのミック・テイラーがいます。彼がどのくらいの頻度でRANGEMASTERを使ったかは定かではありませんが、ステージ上でRANGEMASTERにプラグインしている写真が残されています。
 それからかなり意外なことに、ジョニー・マー(元ザ・スミス)もロリー・ギャラガーの大ファンなのだそうです。これは最近本人が口にしたことで明らかになった事実なのですが、最近ジョニー・マーがロリー・ギャラガーの家に実際に赴き、ギャラガーの遺品のギターやアンプをプレイしまくった、という動画もありますので、興味ある方は検索してみて下さい。

 さて最後に、もうひとつ動画を貼っておきます。こちらもBPCから発売されているRANGEMASTERなのですが、そちらを紹介してみようと思います。



 完全に見た目も仕様も異なるこのペダルは、いわゆるペダルボードにRANGEMASTERを組み込むために開発された「PLAYERS SERIES」版RANGEMASTERです。通常のエフェクト・ペダル・サイズに収められていますが、中身は基本的にデスクトップ型(小箱に入った卓上型)と変わりません。こちらもハンドワイアード/PtoPで組まれたエフェクターです。
 ただし、乾電池のみならず電源アダプターの使用に対応するために、トランジスタはNPNトランジスタを使用(汎用アダプターが使用可能になります)を採用しています。

 そして「TREBLE」と書かれたツマミを追加しています。これはRANGEMASTERが増幅する帯域を高域だけでなく低域に寄せることも可能としたツマミです。RANGEMASTER自体が単純な回路のものですし、ちまたに多く存在するRANGEMASTERクローン・ペダルの多くが採用しているモディファイでもありますが、本家でもそれを採用したMODバージョンとしてこれが存在します。
 しかしなんと言っても最大のポイントは、フットスイッチがあることですよね(笑)。これで「演奏中でも切り替えが可能」になる、という大胆かつ画期的なエフェクターとなりました。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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