
トレブル・ブースターとカテゴライズされるエフェクターは、おおまかに言って2つに分類されます。ひとつは文字通り「トレブル帯域をブーストするエフェクター」、もうひとつは「ダラスRANGEMASTERの回路を踏襲したエフェクター」です。何が違うのか、両方トレブル・ブースターじゃないか。確かにその通りではあるのですが、やはりちょっと違うんです。
60年代にダラスのRANGEMASERが発売されるに前後して、VOXブランドがトレブル・ブースターを発売しています(註:どちらが先かは手元に確証たりえる資料がありません。ご了承下さい)。このVOX TREBLE BOOSTERには何種類かあり、英国製で赤い鉄製の筐体に入ったもの、イタリア製で小さなクロームの筐体に入ったもの、同じくイタリア製で黒いプラスティックの筐体に入ったものなどがありますが、いずれもOEM製品(他社工場がVOXブランドのために作った製品)です。このうちクロームのものと黒いプラスティック製のものは、プラグイン・タイプと呼ばれ、アンプに直接指す仕組みになっています。特にクロームのものは、ザ・バーズ(THE BYRDS)のギタリストであったロジャー・マッギンが、リッケンバッカーの12弦とVOX AC-30と組み合わせて使用したエフェクターとしても知られるモデルです。


ですが、ダラスRANGEMASTERの場合はちょっと具合が違います。増幅用トランジスタにはゲルマニウム・トランジスタが用いられ(前述通りダラスRANGEMASTERではOC44、もしくはOC71、またごく稀にNTK275もあったことが確認されています。いずれも欧州製のトランジスタです)、可変抵抗であるポットは10KΩ(例外的に、稀に20KΩのものもあるとのこと)を使用。細かい回路に関しては本稿では控えますが、前述したVOX製、もしくはEH製品とは違い、ダラスRANGEMASTERは「十分に歪み、そして倍音が豊富に増幅される」という特徴を持っています。単純にトレブル帯域の音量アップを狙ったエフェクターではありませんでした。
ダラスRANGEMASTERとほぼ同じ考え方のブースターに、JHS(John Hornsby Skewes)社のトレブル・ブースターがあります。前述したようにこちらはディープ・パープル?レインボウ期のリッチー・ブラックモアが使用したことで知られるものですが、その回路はほぼダラスRANGEMASTERと同じものです。ただしJHS社のものにはポットがなく、ON/OFFのスイッチがあるのみです。また、トランジスタは初期のみゲルマで、途中からシリコン・トランジスタに変更されていますが。
さて、ダラスRANGEMASTERを含め本稿で取り上げた60?70年代のトレブル・ブースターの多くは、いずれもフットスイッチを備えていません。ダラスRANGEMASTERはいわゆる卓上型(デスクトップ型、と海外でも呼ばれています)ですし、VOX TREBLE BOOSTER、JHS TREBLE BOOSTER、いずれも演奏途中での音色切り替えを年頭に置いていないものです。
その分かりやすい例として、例えばクイーンのブライアン・メイが使用したことでも知られるピート・コーニッシュ製のトレブル・ブースター、そして現在ブライアン・メイが使用しているフライヤー(FLYER)製トレブル・ブースターも同様にフットスイッチを持っていません。これが何を意味するか、と言えば、トレブル・ブースターは元来アンプの出音を補正するために使用されたものなのです。よって基本的に「かけっぱなし(常時ON)」を念頭に置いたエフェクターでもあります。TATS
(BUZZ THE FUZZ)
ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。