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RANGEMASTER HISTORY (02)

2015/10/21

■TREBLE BOOSTER HISTORY (2)

 トレブル・ブースターとカテゴライズされるエフェクターは、おおまかに言って2つに分類されます。ひとつは文字通り「トレブル帯域をブーストするエフェクター」、もうひとつは「ダラスRANGEMASTERの回路を踏襲したエフェクター」です。何が違うのか、両方トレブル・ブースターじゃないか。確かにその通りではあるのですが、やはりちょっと違うんです。

 60年代にダラスのRANGEMASERが発売されるに前後して、VOXブランドがトレブル・ブースターを発売しています(註:どちらが先かは手元に確証たりえる資料がありません。ご了承下さい)。このVOX TREBLE BOOSTERには何種類かあり、英国製で赤い鉄製の筐体に入ったもの、イタリア製で小さなクロームの筐体に入ったもの、同じくイタリア製で黒いプラスティックの筐体に入ったものなどがありますが、いずれもOEM製品(他社工場がVOXブランドのために作った製品)です。このうちクロームのものと黒いプラスティック製のものは、プラグイン・タイプと呼ばれ、アンプに直接指す仕組みになっています。特にクロームのものは、ザ・バーズ(THE BYRDS)のギタリストであったロジャー・マッギンが、リッケンバッカーの12弦とVOX AC-30と組み合わせて使用したエフェクターとしても知られるモデルです。


 また、今も最も一般的なトレブル・ブースターとして、米エレクトロ・ハーモニックス(以下EH)社が70年代初期に発売したSCREAMING TREEというエフェクターもあります。同じくEH社からは、このSCREAMING TREEのプラグイン・モデル、SCREAMING BIRDというトレブル・ブースターもあります。このSCREAMING BIRDは、そのルックスを変えながらも現在も現行品として発売されています。

 乱暴に言ってしまえば、これらのトレブル・ブースターは純粋にギターのトレブル帯域の音量をアップさせるものですが、中低域?低域はそのままです。アンプで音を出した際に(音量的に許される環境であれば)確認できますが、全体にブライトになりつつも、低域がそのまま残っていることを感じる事ができるでしょう。また、音声を増幅するトランジスタには、NPNシリコン・トランジスタ(主に使用されていたのは米GE製の2N2924ですが、他の型番のものもあります)でした。VOXのものもEH社のものも、音量を調節するポットは100KΩのものが使われています。

 ですが、ダラスRANGEMASTERの場合はちょっと具合が違います。増幅用トランジスタにはゲルマニウム・トランジスタが用いられ(前述通りダラスRANGEMASTERではOC44、もしくはOC71、またごく稀にNTK275もあったことが確認されています。いずれも欧州製のトランジスタです)、可変抵抗であるポットは10KΩ(例外的に、稀に20KΩのものもあるとのこと)を使用。細かい回路に関しては本稿では控えますが、前述したVOX製、もしくはEH製品とは違い、ダラスRANGEMASTERは「十分に歪み、そして倍音が豊富に増幅される」という特徴を持っています。単純にトレブル帯域の音量アップを狙ったエフェクターではありませんでした。

 RANGEMASTERは、ローカットが働くことで、ギターのロー成分は削られます。また、歪み系エフェクターと呼べる程に十分に倍音成分が加味されますが、ギターのボリュームを絞ると(まるでゲルマニウム・ファズのように)キラキラのクリーン?クランチ・サウンドを生み出すことが出来ます。もうこの際なので乱暴に言ってしまえば、ダラスRANGEMASTERは「ファズに近い歪み系」なのです。VOXやEHがイコライジングを目的としたブースターであったのとはやはり違うと言わざるを得ないでしょう。

 海外のある文献(米PREMIRE GUITARの記事/2007年)にて、ダラスRANGEMASTERを指して「Frequency Selective Booster」と呼んでいますが、これはそういう種類のエフェクトのジャンルがあったわけではありません。ですが「必要な周波数帯域」を選んで、そこだけをブーストする、という意味で、まさに的確な表現であると思われます。「必要な周波数帯域」とはすなわちバンド・アンサンブルに必要な帯域、ギターという楽器に必要な帯域でもあります。つまり、ギターにとって不必要なロー成分やハイエンド成分はブーストされません。

 ダラスRANGEMASTERとほぼ同じ考え方のブースターに、JHS(John Hornsby Skewes)社のトレブル・ブースターがあります。前述したようにこちらはディープ・パープル?レインボウ期のリッチー・ブラックモアが使用したことで知られるものですが、その回路はほぼダラスRANGEMASTERと同じものです。ただしJHS社のものにはポットがなく、ON/OFFのスイッチがあるのみです。また、トランジスタは初期のみゲルマで、途中からシリコン・トランジスタに変更されていますが。

 さて、ダラスRANGEMASTERを含め本稿で取り上げた60?70年代のトレブル・ブースターの多くは、いずれもフットスイッチを備えていません。ダラスRANGEMASTERはいわゆる卓上型(デスクトップ型、と海外でも呼ばれています)ですし、VOX TREBLE BOOSTER、JHS TREBLE BOOSTER、いずれも演奏途中での音色切り替えを年頭に置いていないものです。

 その分かりやすい例として、例えばクイーンのブライアン・メイが使用したことでも知られるピート・コーニッシュ製のトレブル・ブースター、そして現在ブライアン・メイが使用しているフライヤー(FLYER)製トレブル・ブースターも同様にフットスイッチを持っていません。これが何を意味するか、と言えば、トレブル・ブースターは元来アンプの出音を補正するために使用されたものなのです。よって基本的に「かけっぱなし(常時ON)」を念頭に置いたエフェクターでもあります。

 従来イギリス製のギター・アンプは総じて「ダークな音」と言われるように、アメリカ製(もっとも有名な例でいえばフェンダー製のアンプ)と比べても、重く、暗い音が出ることでも知られます。マーシャル、オレンジ、ハイワット、VOX etc… いずれも「ダークな」印象をお持ちの方が多いでしょう。ただし大変恐縮ですが、ここではすべて60?70年代のアンプを指してそう表現していることをご理解下さい。現行品は全く印象がかわります。その「ダークな」アンプの特性を「バンド・サウンド/ロック・ギター・サウンド」向きに周波数特性を変化させ、抜けのいいギター・サウンドを生み出したのがダラスRANGEMASTERだったのです。(この項続く)

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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