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RANGEMASTER (01)

2015/10/14

■TREBLE BOOSTER HISTORY (1)


 1965年、イギリス初のファズ製品「TONE BENDER」が発売されたのとほぼ時を同じくして、画期的なギター用エフェクターがイギリスで開発・発売されています。こんにち一般的に「トレブル・ブースター」と呼ばれるそのエフェクターに関して、そしてそのエフェクターを開発したダラス社に関して書いてみたいと思います。

 1875年創業の英国の音楽楽器ブランド、ダラス社(「John E. Dallas and Sons LTD.」が正式な社名です)。第2次大戦後、音楽楽器業界が全体として「電気化」していく様に対応するように、同社の開発製品も電子楽器(ギターやオルガン等を含む)に対応する製品の開発を進めるようになりました。

 いきなりの余談で恐縮ですが、ダラス社は「RANGEMASTER」という名前をブランド名として扱っていたか、製品名として扱っていたか、ちょっと正確が線引きができないのです。というのも同社は60年代初期に、主にアンプ製品を扱う「RANGEMASTER」、自社製品を扱う「DALLAS」、輸入ギターを扱う「SHAFTSBURY」、と様々なブランド名を使い分けていたからです。また同社は1959年に「DALLAS RANGEMASTER」という名のアンプ製品を発売していて、これは10インチ・スピーカー1発とビルトイン・トレモロ機構を備えた15W出力のコンボ・アンプですが、それほど人に知られることなく、ほどなくしてこのアンプは廃盤製品となっています。ちょっと面倒臭いですよね(笑)。ただし今回のトレブル・ブースターとは無縁の製品ですので、ここでは参考程度にだけ書いておきました。

 話を戻します。1963年、ロンドンに楽器チェーン店が2つできました。ひとつは「DRUM CITY」、もうひとつは「SOUND CITY」で、共に同じ経営者、イヴォール・アービター(IVOR ARBITER)氏が運営する楽器店です。
 このアービター氏はもちろん後にあのFUZZ FACEというファズを生んだことでも知られる「ダラス・アービター社」の経営者となった人でもあり、もうひとつトリビアを書けば、ビートルズのロゴ・マーク(THE BEATLESというアルファベットの、Tの下部分が伸びたもの」を作った人でもあります。なぜ彼がこのロゴを作ったのかと言えば、前述の楽器店「DRUM CITY」にて1963年にビートルズのリンゴ・スターがドラム・キットを購入した際に、バンドのロゴマークをバスドラの前面にプリントしたいから、ロゴをあしらってくれ、という要請から始まったものです。

 また後者の楽器店「SOUND CITY」は、既にハイワット・アンプに関するコラムでも何度も名前が出てきたお店ですが、後に同社のオリジナル・アンプを発売し、その後ハイワットというアンプに発展することになった、という話は既にご承知かと思われます。

 さて、1965年、前述の楽器製造会社ダラス社と、アービター氏が所持していた楽器製造・販売会社アービター・ウェスタン社は合併し、両者の社長の名をあわせてダラス・アービター(Dallas Arbiter)社となりました。ここでまた少しだけ面倒くさい(笑)話を書きますが、会社がダラス・アービターとなった後も、同社の楽器製品ブランドとして「ダラス(Dallas)」という名前はこの時点でも残っています。1966年に同社から発売されたファズ「FUZZ FACE」は、ダラス・アービター社が製造・発売したものですが、製品のブランド名としては「DALLAS」とだけ書いてあるのはそのためです。

 何度も書いていますが、同社の製品として一番有名なのは間違いなく円形のファズ、FUZZ FACEでしょう。しかし、そのFUZZ FACE同様に21世紀のこんにちに至るまで多くのプレイヤーを魅了し、多くのロックの名作群にて使用された歴史的なエフェクターが英国ダラス・ブランドにあります。それが「RANGEMASTER」というトレブル・ブースターなのです。

 66年に発売された『JOHN MAYALL BLUES BREAKERS WITH ERIC CLAPTON』はクラプトンの名演を収めた名盤として有名ですが、このアルバムでクラプトンの生み出したサウンドはギブソンLES PAUL、マーシャルJTM45、そしてダラスRANGEMSTERを用いたものでした。このアルバムのサウンドにノックアウトされた人はかなり多かったようで、後のプレイヤーにも大きな影響を残しています。

 60年代にはテイストというバンドを率い、また70年代にはソロとして人気を博したロリー・ギャラガーもダラスRANGEMASTERとして有名です。彼はストラトとVOX AC30とRANGEMASTERという組み合わせで、あの魅力的なサウンドを生み出していました。

 実はロリー・ギャラガーのサウンドに魅了され、ギタリストを志した1人がゲイリー・ムーア(2011年没)でした。彼もトレブル・ブースターのサウンドを愛した人ですが、JMI社(BPC社の前身の会社)がRANGEMASTERの完全復刻版を発売(2009年)した際に、我先に、と同機種をいち早く購入した1人でもあります。ゲイリー・ムーアは自らその復刻品を求めるべく楽器店に足を運び、店頭で「自分がどれだけロリー・ギャラガーのサウンドに憧れたか」や「トレブル・ブースターとアンプの相性が?」といった話を店頭で熱く語った、というエピソードも聞いています。

 ブラック・サバスのトニー・アイオミも過去から現在に至るまでRANGEMASTERを使った1人として有名です。彼の場合は今は操作性等を考えてアナログマン製のクローン・ペダル等を使用しています。

 ディープ・パープル?レインボウで名を馳せたリッチー・ブラックモアもRANGEMASTER使いとして知られています。ただし正確に言えば、彼が使用したのはダラスRANGEMASTERではなく、同製品のコピー商品として発売されたJHS社のTREBLE BOOSTERでしたが。

 クイーンのブライアン・メイも、最も有名なRANGEMASTER使いの1人です。あの特徴的なギター・サウンドは、「レッド・スペシャル」はもちろんですが、トレブル・ブースター、そしてVOX AC30なくしては生まれないことはもう多くの方がご承知かと思います。ブライアン・メイも実際のダラスRANGEMASTERではなく、そのコピー品(一番最初に彼が使ったトレブル・ブースターはクイーンのジョン・ディーコンが自作したもの、その後ピート・コーニッシュがカスタムメイドしたものを使用しているそうです)です。

 そして筆者の個人的趣味を交えて言えば(笑)、ダラスRANGEMASTER使いとして常に参考にしているのはTレックスのマーク・ボランです。エレキギターを弾くようになって以降のマーク・ボランは、使用するアンプがなんであれ常にRANGEMASTERを通していた、とのこと。マーク・ボランのサウンドに関しては、幸運にも「おそらく世界一マーク・ボランのサウンドに詳しい」と思われるギタリストが日本にいます(笑)ので、近いうちにその方にご登場いただいて解説していただこうと考えています。

 上記したギタリスト達はいずれもブリティッシュ・ロックの最前線で活躍したトップランナー達ばかりですし、他にも数多くのギタリストがRANGEMASTERを利用しています。ではそのRAMGEMASTERとは一体どんなエフェクターなのか、次回に続きます。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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