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TONE BENDER HISTORY (12)

2015/09/22

■TONE BENDER MK3 (part.2)



 3度目のフルモデル・チェンジを行なったTONE BENDER、通称MK3のお話の続きです。前回「大いなる謎」があると書きましたが、その謎とは一体何か。それは回路です。
 1965年に電気技師ゲイリー・ハーストが開発したTONE BENDER(通称MK1)。1966年初頭に回路を変更しMK1.5となり、また更に1966年春にその改造回路をアップデート・モデファイしMK2が誕生していますが、これら回路の見直しはすべてゲイリー・ハーストが行なっていました。しかし1968年の「MK3」の回路に関しては、ゲイリー・ハーストが開発した回路ではないのです。先ほど書いた「謎」とは。MK3の回路の開発者が誰なのかわからない、という点にあります。

 さかのぼること2年程前。1966年にイギリスのバーンズ(BURNS)社がBUZZAROUNDという名前の黒いファズ製品を発売しています。このBUZZAROUNDは、あのキング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップが名作アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』で使用し、また本人が「今まで使った中で最も素晴らしかったファズはバーンズのBUZZAROUNDだ」という発言もインタビューで残しています。このバーンズBUZZAROUNDは極めて製造数も少なく、激レアな60sビンテージ・ファズとして有名ですが、実はこのBUZZAROUNDの回路は、その2年後に発表されたTONE BENDER MK3に酷似しているものでした。

 BUZZAROUNDは「SUSTAIN」「TINBRE」「BALANCE」という3つのコントロール・ノブをもったファズで、トランジスターもNKT213というPNPゲルマニウム・トランジスタを3ケ使用した回路でした。この回路は、60年代当時としては最新の機構をそなえた回路であることもわかっています。
 ひとつは「ダーリントン・ペア接続」という機構です。出力の低いゲルマニウム・トランジスタを2ケ用いて、「最初の2ケのトランジスタをまるで1ケの高出力トランジスタのように扱う」ための接続方法を指します。その後時代もパーツも変わり、ファズのみならずアンプ等でも高出力シリコン・トランジスタが主に使われるようになるとこの「ダーリントン接続」も廃れていくわけですが、1960年代の音楽電子機器の回路としては、最先端技術でもあったわけですね。

 また、BUZZAROUNDにはゲルマニウム・ダイオードを用いて3番目に位置するトランジスタの温度安定化機構をも備えています。ゲルマ・トランジスタが温度の変化にとても弱いパーツであることはファズ・マニアの方であればご承知かと思われますが、ダイオードを介して温度の安定化を計る事で、出音も安定化を計る。というのがもうひとつの最先端技術となります。

 そうした2つの「斬新な」機構を備えたBUZZAROUNDでしたが、ロバート・フリップがベタ褒めした以外、当時はそれほど流行したファズとは言えませんでした。ハッキリ言ってしまえば全然売れなかったファズということになります(笑)。故に、今最も入手困難なヴィンテージ・ファズのひとつとなったバーンズのBUZZAROUNDですが、非常にコントロール=思い通りのサウンドを生み出すのが難しいという特徴を持ったファズで、一般的に我々が使う「ボリューム」とか「トーン」とか「歪み」といったコントロールを持っていません。一応機能的には「SUSTAIN」が歪みを、「TINBRE」はトーンを、「BALANCE」はボリュームをコントロールするということになっていますがとてもそんな単純なものではなく、3ケのツマミはそれぞれが相互にリンクするように働くようになっています。そんな点ももしかしたら1966年当時このファズが一般的にならなかった理由かもしれません。

 しかしその2年後、かなり近似的な回路をもったTONE BENDER MK3が発売されると、こちらは大量に製造されたこともあり、一般的な認知を得ました。BUZZAROUNDとは違い、「VOLUME」と書かれたツマミはボリュームを、「TREBLE/BASS」と書かれたツマミはトーンを、そして「FUZZ」と書かれたツマミはそのまま歪みの量をコントロールできたからです(笑)。今から考えればおかしな話ですが、60年代の機材においてはこういうこと(ツマミの名通りのコントロールが出来ない)はよくあった話でもあります。

 「TREBLE/BASS」と書かれたツマミは、TREBLE側に回せばシャリシャリと、BASS側に回せばドロドロとしたサウンドになります。これはいわゆるEQ的なコントロールではなく、ローカット/ハイカットを極端に施したサウンドのブレンドで成り立っています。故に、振り切れば効きすぎると感じるくらいに効きますが、その中間の絶妙なブレンド・ポイントを見つけることがコツになります。

 68年に発売されたTONE BENDER MK3は、上記のように「ダーリントン・ペア接続」「ゲルマニウム・ダイオード使用」とともに、TONE BENDERと名のつくファズとして初めてプリント基板(PCB基板)を用いたファズでもあります。そんな点も、このファズが当時安定したサウンドと安定した製造・販売量を稼いだ点かもしれません。

 現在BRITISH PEDAL COMPANYでは、このTONE BENDER MK3の復刻品として黒とオレンジのペイントが施された「MK3 TONE BENDER」と共に、上述したバーンズ社の「BUZZAROUND」も復刻発売されています。特に後者は(現在も運営されてる)英国バーンズ社から正式ライセンスを受けて復刻発売されているものです。BUZZAROUND、そして(当コラムでお馴染みの)ハイワット・アンプといえばそれはもうそのままキング・クリムゾンのロバート・フリップが60?70年代に愛用したセットアップでもあります。キング・クリムゾンのファンの方には是非トライしていただきたいコンビです。
 参照のために、以下にBPCの公式デモ動画を貼っておきます。



 また、TONE BENDER MK3と言えば、以前も書きましたがレッド・ツェッペリン時代のジミー・ペイジが一時期使用したことでも知られます。ペイジとTONE BENDERと言えば、その殆どの場合TONE BENDER MK2を指しますが、実際に60年代末にMK3を使用したことが残された写真からも確認できますし、60年代末のソーラーサウンド社の広告でも「ジミー・ペイジが使用した」と書かれてもいます。

 所謂クラシックなブリティッシュ・ロック・サウンドを生み出した70年代のプレイヤーだけではなく、シューゲイザーのカリスマ的存在でもあるマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズ、そして米グランジのカリスマでもあるダイナソーJRのJマスシスが共に(今も)MK3を使用していることも、前回触れた通りです。特にJマスシスが入手・使用したTONE BENDER MK3は、現在発売されている復刻品を近年手に入れたものです。その際彼は「これだけでもの凄く幅広いファズのバリエーションが出せる」と喜んでいた、とのことです。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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