


さかのぼること2年程前。1966年にイギリスのバーンズ(BURNS)社がBUZZAROUNDという名前の黒いファズ製品を発売しています。このBUZZAROUNDは、あのキング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップが名作アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』で使用し、また本人が「今まで使った中で最も素晴らしかったファズはバーンズのBUZZAROUNDだ」という発言もインタビューで残しています。このバーンズBUZZAROUNDは極めて製造数も少なく、激レアな60sビンテージ・ファズとして有名ですが、実はこのBUZZAROUNDの回路は、その2年後に発表されたTONE BENDER MK3に酷似しているものでした。
ひとつは「ダーリントン・ペア接続」という機構です。出力の低いゲルマニウム・トランジスタを2ケ用いて、「最初の2ケのトランジスタをまるで1ケの高出力トランジスタのように扱う」ための接続方法を指します。その後時代もパーツも変わり、ファズのみならずアンプ等でも高出力シリコン・トランジスタが主に使われるようになるとこの「ダーリントン接続」も廃れていくわけですが、1960年代の音楽電子機器の回路としては、最先端技術でもあったわけですね。
そうした2つの「斬新な」機構を備えたBUZZAROUNDでしたが、ロバート・フリップがベタ褒めした以外、当時はそれほど流行したファズとは言えませんでした。ハッキリ言ってしまえば全然売れなかったファズということになります(笑)。故に、今最も入手困難なヴィンテージ・ファズのひとつとなったバーンズのBUZZAROUNDですが、非常にコントロール=思い通りのサウンドを生み出すのが難しいという特徴を持ったファズで、一般的に我々が使う「ボリューム」とか「トーン」とか「歪み」といったコントロールを持っていません。一応機能的には「SUSTAIN」が歪みを、「TINBRE」はトーンを、「BALANCE」はボリュームをコントロールするということになっていますがとてもそんな単純なものではなく、3ケのツマミはそれぞれが相互にリンクするように働くようになっています。そんな点ももしかしたら1966年当時このファズが一般的にならなかった理由かもしれません。
しかしその2年後、かなり近似的な回路をもったTONE BENDER MK3が発売されると、こちらは大量に製造されたこともあり、一般的な認知を得ました。BUZZAROUNDとは違い、「VOLUME」と書かれたツマミはボリュームを、「TREBLE/BASS」と書かれたツマミはトーンを、そして「FUZZ」と書かれたツマミはそのまま歪みの量をコントロールできたからです(笑)。今から考えればおかしな話ですが、60年代の機材においてはこういうこと(ツマミの名通りのコントロールが出来ない)はよくあった話でもあります。
所謂クラシックなブリティッシュ・ロック・サウンドを生み出した70年代のプレイヤーだけではなく、シューゲイザーのカリスマ的存在でもあるマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズ、そして米グランジのカリスマでもあるダイナソーJRのJマスシスが共に(今も)MK3を使用していることも、前回触れた通りです。特にJマスシスが入手・使用したTONE BENDER MK3は、現在発売されている復刻品を近年手に入れたものです。その際彼は「これだけでもの凄く幅広いファズのバリエーションが出せる」と喜んでいた、とのことです。TATS
(BUZZ THE FUZZ)
ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。