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HIWATT HISTORY (09)

2015/08/08

■PETE TOWNSHEND and HIWATT part 1


 ハイワットというアンプ・ブランドの名声に欠かせないギタリストが、ザ・フーのピート・タウンゼンドでしょう。ハイワット社の広告にも頻繁に登場した彼ですが、モンスター・バンドとして世界中を席巻するようになった60年代後半から70年代にかけてのザ・フーのステージに欠かせないアンプがハイワットであったことは、すでにご承知の方も多いと思われます。

 67年にサウンド・シティーL100(デイヴ・リーヴスが製作したカスタムメイド・アンプ)を初めて使用して以来、ピートはハイワットのアンプを2002年まで使用し続けました。常に3台のアンプヘッドをステージに用意し、しかも世界中で開催されるライヴで使いまくったピートですから、70年代までに彼が使ったハイワット・アンプは合計15台以上にもなるとのこと。

 ザ・フーとハイワットの歴史は、まだハイワットというブランドが出来る前から始まります。前述したように1967年、ピート・タウンゼンドはサウンド・シティーL100という100Wアンプを使用するようになります。実はバンドで最初に同ブランドのアンプを使用し始めたのはベースシストのジョン・エントウィッスルの方でしたが。ギターのピートも間をおかず、その新しいカスタムメイド・アンプを使用するようになります。ピートが使用したそのアンプは通常のL100とは回路が異なり(後述)、ピートのためにカスタマイズされた回路が採用されていました。

 当時のザ・フーのステージではピートはアンプヘッドを3台持ち込むことが多かったのですが(2台を使用し、1台はスペア、ということが多かった模様)、ピートが使用したL100アンプは4インプット(あらかじめリンクされているインプットで、各々にゲイン・ボリュームつまみアリ)、トレブル&ベースの2EQ、そしてマスターボリュームを搭載したものです。サウンド・シティーのアンプは同ブランド独特の金色のコントロールパネルですが、既に「HIWATT」のブランドロゴプレートが付いていました。

 デイヴ・リーヴスがサウンド・シティー・ブランドとのOEM契約を終了し、自身のハイワット・ブランドに専念するようになった頃、ピート・タウンゼンドの使用アンプもハイワット・ブランドのものに移行します。ピートが使用したアンプヘッドは、ハイワットの名物アンプでもあるDR103をベースにしつつも、ピートのためにカスタマイズされた回路を持ったアンプでした。真空管構成はDR103同様に、インプットにECC83を5本、パワー管にEL84を4本使用した回路ですが、その回路は上記サウンド・シティーL100と同様のカスタマイズが施されたもの。インプットがリンクされていることで、音量もゲインもその時点で稼ぐことができるというものです。

 69年頃からピートに提供されたハイワットのアンプヘッドには「CP103」という型番が付けられました。もちろん「ピートの為のカスタムメイド」を意味するものです。

 69年末に追加で彼に提供された「CP103」アンプヘッドには、表面のコントロール・パネルに「THE WHO」の文字が印字され、「SUPER WHO 100」というアンプ名が背面のラベルに印字されるようになりました(ただし型番はCP103のまま)。

 70年と71年に提供された「CP103」アンプヘッドでは、そのコンパネの「THE WHO」の文字がやや左寄りに移動。

 73年になると、なぜかコンパネの「THE WHO」の文字がなくなります。また、型番も「CP103」ではなく「DR103W」というものに変更されました。

 上記したように些細な変更があったとはいえ、ここまで基本的に回路はすべて同じものです。最後に記載した「DR103W」に至っては、73年にピートが使い時初めて以来、2002年まで使用され続けたアンプヘッドです。ピート・タウンゼンドがいかにこのアンプヘッドに夢中になったか、を示すと同時に、ハイワットのアンプが本当にタフで、過酷な使用条件にも耐えうるスペック(=ミリタリー・スペック最大の強み)を持っていたことの証とも言えるでしょう。

 ピートはヘッド同様に、キャビネットもハイワット製品を使用しました。まさに「ハイワットの壁」と呼べるほどに、70年代?80年代のザ・フーのステージ上にはハイワットのキャビがこれでもかと思える程に並べてありましたが、ピート・タウンゼンドが実際に音出ししていたキャビは1ケか2ケだけだった、とのこと(他のキャビはダミーだったという意味)。ピートが使用したキャビにはもちろんフェーン社製のスピーカーが内蔵されていました。
 ただしキャビだけに関しては、ピートはいくつか他の選択肢もトライしています。76年頃にはキャビ内のスピーカーをJBL K120に変更、82年にはメサ・ブギーのキャビでハイワット・ヘッドをならす、という組み合わせもしています。

 ピートは大量にペダル・エフェクターを使う人物ではありませんでした。ハイワットを使う以前、主にマーシャルのアンプを使っていた時代のピートも、殆どの場合アンプ直結、という潔い(笑)セッティングであったことも確認できますが、ハイワットを使用するようになると少しだけピートの足下事情も変わってきます。それは何より、演奏する会場の規模が何倍にも大きくなり、大音量を要求されたためだったことは間違いないでしょう。
 しかしハイワットのアンプが、直結のトーンでも、ファズやコンプを挟んだエフェクティブなトーンでも、ともに有用であった、ということは、ピート・タウンゼンドの長い歴史が証明している、と言い換えることもできるハズです。(この項つづく)

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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