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HIWATT HISTORY (08)

2015/07/28

■JIMMY PAGE AND HIWATT part.2


 1969年から1971年の間、ステージ上のジミー・ペイジはハイワットをメインで使用していた、という話の続きです。まず、そのアンプはどんなものだったかを見て行きたいと思います。ルックスは通常のハイワット100W=DR103とほぼ同じものに見受けられますが、明らかにノーマルDR103とは異なる点が3つ発見できます。ひとつはインプットジャック付近に設けられたXLR端子。それからコントロール・パネルに配置された「BALANCE」と書かれたツマミ、そしてコントロールパネルの上に印字された「JIMMY PAGE」の文字です。

 まずXLR端子に関して。これは前述したようにフットスイッチを接続するための端子です。では何をスイッチで切り替えるのかというと、アウトプット・レベルを切り替えるものです。そして「BALANCE」と書かれたツマミはアッテネート機能を保持した出力調整ツマミであり、ノーマル状態だとこのツマミ(ポット)はスルーして出力されます。スイッチを入れるとこの「BALANCE」ツマミが機能し、出力を下げることが出来ます。ここで注目したいのは、この「BALANCE」ツマミ以外にも、このハイワットのヘッドには(通常のDR103同様に)インプットゲインのツマミ、そしてマスターボリュームのツマミも持っている、ということです。

 ハイワットのアンプは入力段で歪ませることも可能ですが、もちろん出力管を生かした歪みを生み出すことができます。前者を生かす場合はインプットゲインを、後者を生かす場合はマスターボリュームをまわすことになりますが、マスターボリュームを絞った状態だと音量が下がると同時に「出力段で生まれる歪み」も同時に減衰します。しかしこのジミー・ペイジ向けのカスタム回路であれば、出力段の真空管が生み出す歪みをそのままに、音量だけを絞ることが可能になります。つまり、アンプヘッドが生み出す歪みを殺す事無く、バッキング時点とソロ時点での音量をコントロールすることが可能となるわけです。

 実は、ハイワット・アンプを使う以前のジミー・ペイジ(VOXやリッケンバッカーのアンプを使用していた時期)は、頻繁にファズ・ペダルを用意し使用していました。そのファズは主にソーラーサウンド製TONE BENDER PROFESSIONAL MK2だったのですが、レッド・ツェッペリンとして世界中で多くのライヴを行なうようになった70年頃から足下にファズを置く事は極めて少なくなりました。前述したように、実際に70年1月のロイヤル・アルバート・ホール公演ではエフェクターはVOXのグレーワウとマエストロECHOPLEXのみが使用されてます。床にはもうひとつペダルが置かれていましたが、これは例のハイワット・アンプのためのフットスイッチです。

 その2年前、68年の段階でジミー・ペイジ本人が「僕のギター・サウンドの75%はこれで出来てる」とまで語ったファズ=TONE BENDERですが、その後は使用頻度も少なくなりました。その理由が本人から語られたことはないのですが、推測するに、アンプで十分な歪みを生むことができ、さらにそのアンプの歪みを望み通りにコントロールできるようになったからではないか、と思われます。その歪みを生み出したのがハイワットのカスタム・アンプヘッドで、その最も分かりやすい例が70年のロイヤル・アルバート・ホール公演でのレッド・ツェッペリンのサウンドだろう、と考えるのですがいかがでしょうか?

 さて、そんなワケでジミー・ペイジの熱心なファンであれば、上記のようなペイジ&ハイワットの関係はご存知かと思います。そして当然のように世界中のペイジ・ファンは彼のような音を出すべく、ハイワット・アンプにトライするわけですが、あの独特の回路はカスタムでないと実現できません。そこで現行のHIWATT UK社では、そのジミー・ペイジのスペシャル・サーキットを搭載したモデルをラインナップしています。

 ひとつはペイジのアンプヘッドを完全に再現した「SSJ103 HEAD」です。XLR端子を装備し、アッテネート機能のコントロールを足下で行なう「BALANCE」機能を装備。また、前述したように(通常のDR103とくらべて)インプットのゲインがより大きく設定された回路を採用しています。ただし、さすがにジミー・ペイジ本人の名前を冠することは難しかったようで(笑)、パネルにはペイジの名ではなく「SAP」という文字がプリントされています。このSAPとは「SPECIAL ALL PURPOSE」の頭文字ですが、深い意味を持つコードネームではありません。実は1970年代から、ハイワット・アンプには「AP(=ALL PURPOSE)」というコードネームが存在し、アンプのバックパネルのシリアルコードにこの2文字が印字されていることがあります。が、この「AP」は実際には「ギターでもベースでもキーボードでも使用可能」という意味で付けられたものでした。ジミー・ペイジのカスタムヘッドのみならず、ユーザーのリクエストに答えてカスタマイズされた回路で制作・出荷されたアンプは皆「SAP」でもある、ということになります。

 さらに、現行のHIWATT UKではもうひとつ、ペイジ・サウンドに特化したアンプをラインナップしています。それは前述したようなジミー・ペイジのスペシャル・サーキットをそのままに、出力を20Wまでダウンサイジングした「LITTLE J RIG」というモデルです。このモデルでは前述のSSJ103とは異なり、

・フットスイッチ端子を(XLR端子ではなく)通常の1/4フォーン端子に
・出力を20Wと0.5Wで切り替え可能
・12インチのフェーン社製スピーカー1発を組み込んだ専用キャビネットが付属

という仕様に変更されています。1/4フォーン端子であれば今一般に販売されているラッチタイプのフットスイッチが使用可能というわけです。また出力を0.5Wまで下げれば、もちろん自宅での使用も可能です。(余談になりますが、アンプで歪みを作ろうと思う場合、フルチューブ・アンプだと出力が1Wでもかなり音はデカいですよね。家族や隣人からのクレームを考慮すると、小出力であることはやはり我々日本人の住宅事情にとってとても重要です)。
 以下に20W版の「LITTLE J RIG」のサンプル動画を貼っておきますので、是非参照してみて下さい。


筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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