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TONE BENDER HISTORY (07)

2015/07/02

■ THE OTHER SIDE OF TONE BENDER MK1.5


 1966年の初頭に発売されたTONE BENDERの最初のモデルチェンジ版(通称MK1.5)は、2?3ヶ月というほんの僅かな期間しか発売されていません。しかし、このMK1.5の回路はシンプル極まりないファズ回路でありながらも、TONE BENDERのみならずブリティッシュ・ファズの基本中の基本ともいうべきものとなりました。


 このMK1.5の後を受けて66年春に発売された2度目のモデルチェンジ版TONE BENDER PROFESSIONAL MK2(詳細は後述します)は、このMK1.5の回路の一番最初の部分に増幅回路を付け加えたものです。その意味でもこのMK1.5という存在が「TONE BENDERの過渡期の製品」であることがわかりますが、それのみならず、このMK1.5回路を持ったファズがその後数多く世に出回ったことでも、その影響力がうかがえます。

 66年の年末頃、アービター社は円形筐体に収められたオリジナルのファズ製品、FUZZ FACEを発売しています。前述したように、このFUZZ FACEの回路はほとんどTONE BENDER MK1.5と同じものでした。FUZZ FACEといえばあのジミ・ヘンドリクスが使ったことで今も多くのファンの耳に馴染みのあるファズですが、TONE BENDER MK1.5はその雛形と言うことが出来るかもしれません。もちろんご承知のように、TONE BENDERとFUZZ FACEは発売した会社が別ですので、その制作過程に関連はありません。筆者も以前、TONE BENDERの生みの親であるゲイリー・ハースト本人にこの点を確認してみたことがありますが、ゲイリー・ハーストはFUZZ FACEの開発への関与を一切否定しています。

 またFUZZ FACEの発売よりほんのわずか前、66年の秋にVOX TONE BENDERというファズが発売されています。VOX TONE BENDERにも色々な種類があり、全容を把握するのはなかなか大変なことですが、1966年秋以降にイタリアの工場で生産されていたこのVOX TONE BENDERは、その回路がTONE BENDER MK1.5とほぼ同じものでした。イギリスでハンドメイドされていたTONE BENDERとは異なりこのイタリア製のVOX TONE BENDERは大量に生産・流通されたために、今も「TONE BENDERといえばこのメイド。イン・イタリーのVOX製品」だとお考えになる方も多いと思われます。

 話が飛びますが、VOXという商標がコルグ社の傘下になった1990年代、VOXブランドからTONE BENDERが復刻発売されたことがあります。復刻とはいえまったく新しい筐体に身を包んだその黒いファズは「ゲルマニウム・トランジスタを採用した60’Sファズ・サウンド」が売りのペダルでしたが、このファズの回路も実はTONE BENDER MK1.5回路を踏襲したものでした。

 また同じく1990年代、イギリスでもTONE BENDERの復刻製品の発売が始まりました。SOLA SOUND LIMITED(60年代にTONE BENDERを発売した会社)の権利を保持していたMACARI’S社から、SOLA SOUND TONE BENDER PROFESSIONAL MK2というファズが復刻発売されたのですが、このファズの回路はMK2回路ではなく、こちらもMK1.5回路を採用していました。

 さらに90年代半ばには、既に現代ファズ・ペダルを語る上で欠かせないと言えそうなファズの名器、Z.VEX FAZZ FATORYが発売になります。FUZZ FACTORYは飛び道具的なファズ・サウンドまで生み出す事のできる、多種多様なコントロールを可能にした逸品ですが、実はそのFUZZ FACTORYのファズ回路も、基本的にはTONE BENDER MK1.5の回路を踏襲しています(FUZZ FACTORYの場合、そのネーミングからして既にFAZZ FACEにインスパイアされていることは明白ですが)。

 60年代から現在に至るまで、最もシンプルで基本的なファズの回路として親しまれるTONE BENDER MK1.5回路。2ケのゲルマニウム・トランジスタを含め、その基板上にはパーツがたった9ケしかないというシンプルさですが、シンプルであるが故に、ほんの少しその回路をモディファイすれば更にいろいろなファズのバリエーションを生み出すという回路でもあります。少しモディファイすればFUZZ FACEのようになり、また本気でモディファイすればFUZZ FACTORYのようにもなる、という回路とも言えるわけです。

 ただし、1966年に発売されたオリジナルのTONE BENDER MK1.5の場合、その原始的な回路ゆえに、とてもコントロールするのが難しい製品でもあります。60年代のFUZZ FACE等も同様ですが、バイアスのマッチングはそのまま音に影響してしまうので、パーツのマッチングがあっていない場合、どうしようもない(笑)ファズ・サウンドしか生まれません。電源のボルテージとか、インプット信号のインピーダンスに敏感に反応してしまうこの回路(電気的な意味で、ボルテージ・フィードバック回路、もしくはフィードバック・ループ回路と呼ばれたりします)は、そんな意味でも60年代らしい荒々しさを保った回路、と言うことができるかもしれません。

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

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