smpl

TONE BENDER HISTORY (01)

2015/04/18
■ THE BIRTH OF THE LEGEND pt.1

 今から50年前、1965年の初夏のお話です。
 当時イギリスで大人気を誇ったグループに、ジョン・バリー・セヴンというグループがありました。一応そのグループ名通りに7人のメンバーがいることになっていましたが、リーダーで作曲を担当したジョン・バリーは、ステージ演奏には殆ど参加していません。もちろんこのジョン・バリーは、後に映画音楽の分野で世界的巨匠と呼ばれる大作曲家その人でもあります。


 そのジョン・バリー・セヴンは主に華麗なストリングス・アレンジをロックンロールのビートに組み合わせたインスト主体のバンドでした。このグループの代表曲はなんと言っても、今も様々な機会に耳にすることが出来る「007のテーマ」で間違いないでしょう。その「007のテーマ」でもひと際耳になじみ深いギターのフレーズ。これはこのグループのギタリスト、ヴィック・フリックによる演奏でした。

 さて、1965年のある日、このヴィック・フリック(註:この時点で彼は既にグループを脱退し、ロンドンで人気NO.1のセッション・ギタリストとなっていました)が英ロンドンのド真ん中にあった、とある楽器店の修理工房を訪れました。この修理工房は主にVOX製アンプの修理をメインに行なっていた工房でしたが、その場へやってきたヴィック・フリックは、工房の主任にとある悩みを打ち明けました。
「このファズ・ペダルなんだけど、どうやら故障しているらしい。なんとか使えるようにできないだろうか」。
 彼が店に持ってきたペダルは、米国製のファズ、そして世界で初めて製品化されたファズ、MAESTRO製FUZZ TONEでした。ヴィック・フリックいわく、音がブツブツとブツ切れになるこのファズは、どこか故障しているに違いない、本来ならもっと歪みとサスティーンが持続するはずだ、と。

 この修理工房の主任、ゲイリー・ハースト氏は受け取ったそのFUZZ TONEの回路を丹念に調べ上げ、ある結論に達しました。「このファズはどこも壊れてはいない。回路の設計通りの音が出ているよ」。

 ここで簡単にマエストロ製FUZZ TONEの特徴を記します。1962年、アメリカで発売されたMAESTRO製FUZZ TONEは、前回も記したようにローリング・ストーンズ「(I CAN’T GET NO)SATISFACTION」の有名なイントロでも耳にすることのできるファズ・サウンドを生み出したペダルです。ゲートが強烈に作動し、サスティンがほとんど残らないウチにブチブチと音が途切れるこのファズは、今でいえば「ジージーというガレージ臭漂う荒々しいサウンド」と言えるかもしれませんが、当時は当然ながらファズといえばこれ1種類しかありませんでした。

 閑話休題。修理工房のカウンターを挟んで、ギタリストと工房の主任が互いに困った表情を浮かべたであろうことは想像に難くありません(笑)。
そこでゲイリー・ハーストがある提案をします。「なんならファズを作ろうか?もっと使えるものを」。

 こうしてゲイリー・ハーストは、まずヴィック・フリックのためにファズを制作します。この時回路は前述のMAESTRO製FUZZ TONEを参考にしました。回路図を比較すれば、その類似点は明らかです。しかし各種抵抗値の再検討、そしてトランジスタ他パーツもリファインすることで、まったく新しいファズが生まれる事になりました。
 この時、ゲイリー・ハーストは1日で10ケのオリジナル・ファズを制作したとのこと。試作品として製造したために、ケースは安価で入手も用意な木製の板を切り貼りしてあつらえました。これがイギリス初のファズ製品、TONE BENDERの雛形となったモノです。

 この試作品は脚で踏むスイッチとは別に、さらにON/OFF用のトグル・スイッチも設けられていたこと、インプットやアウトプットのジャックが不思議な(笑)場所に配置されていたことが確認できます。また、細かい点ですが、2ケのノブには金属のノブが付けられていますが、このパーツはVOX製のアンプに使用されていたノブと同じものです。つまり、その工房にあったものを流用した、ということがうかがえます。

 さて、ここまでのお話を「オマエはまるで見てきたかのように書いているが、これはホントなのか?」という疑問を抱かれる方もいるかと存じます。もちろん筆者はその場面にいたわけではありませんが、上記エピソードはすべてゲイリー・ハースト本人から直接もらった証言を元に構成しています。

 かくして英国初のファズ・ペダル製品「TONE BENDER」が生まれました。そして瞬く間にこのTONE BENDERはイギリス中の話題となります。(この項続く)

筆者紹介

TATS
(BUZZ THE FUZZ

ミック・ロンソンに惚れてから、延々とTONE BENDERの魔界を彷徨う日々を送る、東京在住のギター馬鹿。ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」主筆。スペインMANLAY SOUNDとの共同開発で各種TONE BENDERのクローン・ペダルを企画・発売すると同時に、英JMI~BRITISH PEDAL COMPANYでのTONE BENDER復刻品の企画・発売にも協力。季刊誌「THE EFFECTOR BOOK」(シンコーミュージック刊)ではデザインを担当。

category

関連リンク